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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「配球を見るポイント」

 

評論家時代は無欲の境地も、監督に戻ると欲目が生じる


 振り返れば、ヤクルトスワローズでの9年間は、私の監督生活の中で一番充実した時だった。南海ホークスでプレーイング・マネジャーを経験して、45歳で現役引退。その後8年間、評論家生活を送った。これが良かったのだと思う。

 自分の野球に関する思想、哲学を頭の中で整理するチャンス。加えて現場から離れ、評論家として試合を見ると、欲がないからどちらが勝っても関係ない。すると、ユニフォームを着ているときには見えなかったものが見えてきた。ユニフォームを着ているときに、これぐらい野球が見えていたら良かったのに、と思った。そうしたら、もう少しいい仕事ができたに違いない。

 不思議なものだ。無欲とか無心とか、言葉では言っても人間、まずそんな境地になることはできない。せっかく評論家時代に無欲の境地になっても、監督に復帰したとたん、欲の塊に戻ってしまう。欲目というのは、おそらく盲目に近いのだろう。だから、評論家は「じゃあお前、やってみい」と言いたくなるような話ができる。評論家には見えるのだ。それが、ユニフォームを着ると見えなくなってしまう。厄介だ。だから少しでも無欲、無心に近づこうと、川上(川上哲治)さんのように寺で座禅を組んで修行したりするわけだ。私など、まだまだ修行が足りない。

 私はテレビ朝日のプロ野球中継解説者を務めたことがある。シーズンが始まる前、局のディレクターが家を訪ねてきた。アナウンサーがいて、解説者がいて、という実況は、もはやマンネリ化している、という。

「何か放送を盛り上げる、画期的なアイデアはないですかね」

 そう言われて私は、ストライクゾーンを9分割し、ピッチャーの配球を予測しながら解説してはどうか、と提案した。試合が終わってから配球を振り返ってもつまらない。実況の中に入れていこう、と。私はキャッチャー出身だから、そこのところは得意分野だ。

 ディレクターは飛びついた。

「そりゃあ、いいですね。帰って、技術者と検討してみます」

 1週間ほど経って、「できそうです」と電話がきた・・・

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野村克也の本格野球論

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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