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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「記憶に残る新人」

 

人間的成長なくして技術的進歩なし


 このところ球界の話題を見るにつけ、あらためてヤクルト監督就任1年目のユマキャンプを思い出す。毎晩1時間に及ぶ夜のミーティングで、私は野球の話を一切しなかった。「人間的成長なくして技術的進歩はない」が私の哲学。技術を教える前に人間教育、である。プロ野球選手の中には、勘違いしている者が多い。社会人、一般社会での経験がないから、考え方が甘い上に、若くして大金をつかんでいる。故に世の中をナメてしまう。しかし、現役生活はせいぜい37、38歳まで。引退後の生活のほうが、圧倒的に長いのだ。その長い人生を堅実に生き抜くため、現実をしっかり見つめ、考えさせる。果たして今の監督たちは、選手にこういった人間教育を施しているのだろうか。

 さて、今季も開幕まであと1週間。何人のルーキーが、開幕一軍キップを勝ち取るかに興味が集まる。

 ヤクルト監督時代、1993年のドラフト1位指名は三菱自動車工業京都・伊藤智仁だった。彼を見て、「これはすぐ使えるな」と思った。まず手が長く、ピッチャーらしい体形。そのぶん、手が遅れて出てくるフォームになる。微妙にタイミングが狂うから、バッターにとっては一番嫌な投げ方だ。加えて伊藤智のスライダーは絶品だった。

 彼に重なったのが、2007年楽天入団の田中マー君(将大=現ヤンキース)である。私は彼のスライダーに惚れ込んだ。大概はストレートに惚れ、それが「使える、使えない」の判断基準になる。ストレートのスピード、球のキレ、コントロール。しかし伊藤智もマー君も、そのスライダーを見て「これは使える」と思った。それこそバッターが嫌がる球だった。

スライダーが筆者の目に留まり、1年目から一軍マウンドに上がり11勝をマークした/写真=BBM


 そして、私が再三言う、「困ったら原点に帰れ」の“外角低め”。この外角低めの精度と、バッターが嫌がる球種を1つ以上持っているという点で、伊藤智もマー君も“即戦力”だった。もちろん、本人たちには「開幕から一軍で使うから、頑張れよ」なんてひと言も言わなかったが。

 マー君がもし巨人に入っていたら・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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