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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「ベンチの過ごし方」

 

元気とヤジで一軍ベンチに欠かせなかった大塚


 チームの調子が悪いと、ベンチ内はどうしても暗くなる。今季も開幕から13試合、なかなかチーム1号が生まれず、最下位を独走していたときのオリックスのベンチは、見るからに真っ暗なお通夜状態だった。あれを見るたび、私は心の中で「大塚がいればよかったのになあ」とつぶやいていた。

シーズン開幕当初に低迷していたころ、ベンチの雰囲気も良くなかったオリックス/写真=太田裕史


“大塚”とは私が南海で監督を務めていた1972〜75年、外野手として在籍していた大塚徹だ。のちに息子(淳)がヤクルトへ入団した。

 この大塚、とにかく元気でヤジがうまかった。そのヤジがタイミングといい内容といい絶妙で、試合中、ベンチのムード作りには最高なのだ。ただ、試合にはほとんど起用されていなかったから、球団が一度、整理選手のリストに大塚を入れてしまった。私は彼をリストから外すよう、社長に掛け合った。

「でも、まったく戦力になっていないじゃないか」

「いや、彼はベンチにいるだけでチームに貢献しているのです」

 相手ピッチャーに打線が手を焼き、なかなか打てないことがあった。みんながしょんぼりしているベンチに、大塚の声が響き渡った。

「高給取りの監督でも打てないんだから、お前らが打てなくて当たり前だろう!シーンとすな!!」

 これは傑作だった。ベンチに思わず笑い声が起こった。こうしてベンチを活気づけるのみならず、時には相手選手がこたえるようなヤジを飛ばした。すると、相手ベンチから怒鳴り声が聞こえてくる。

「大塚、出てこい!!」

 だが大塚自身は試合に出ないから、相手ピッチャーにぶつけられる心配もなかった。ヤジだけで十分、戦力になっていたのだ・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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