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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「五輪」

 

五輪、夏の甲子園閉幕の前、西鉄・豊田の訃報を聞いた


 この号が出るころには、17日間に及ぶリオ五輪も、15日間にわたる夏の甲子園大会も閉幕。今回は五輪の話を……と思っていたら、いきなり訃報が飛び込んできた。元西鉄の看板選手・豊田泰光が亡くなった。豊田は私と同じ昭和10年生まれ。しかし、一軍定着に3年かかった私とは違い、1年目から西鉄打線のレギュラーを張っていた。当時西鉄・三原脩監督が唱えた『流線形打線』はこの二番・豊田がいたからこそ、可能だったのだ。

 豊田には、本当に痛いところでよく打たれた。だから、嫌な思い出しかない。しかも、彼がホームランを打ってベースを一周してくるときの、小憎たらしい態度といったら!三番の中西太さんに打たれても腹は立たないのに、豊田に打たれると腹が立って仕方なかった。あのおとなしい杉浦忠でさえ、同じことを言って悔しがっていた。勝負強さは抜群で、近年当たり前になってきた“打てる遊撃手”のハシリでもあった。ご冥福を祈りたい。

 高校野球はもちろん、五輪も毎回テレビの前に釘づけだ。スポーツの、しかも最高峰の戦いとあらば種目を問わず、大いに興味が湧いてくる。

 どんな競技にも、勝ち負けがある。そこに注目せざるを得ないのだ。野球と同様、なんらかの差が勝敗という結果を生む。それは、なんの差か。例えば陸上競技の100メートル。決勝ともなると、ビリの選手との差だって、2歩やそこらだろう。1位と2位など、1歩の差もないのではないか。そう思うと、そんな僅差で負けた2位の選手が気の毒でならないのだ。たったそれだけの差なのに、1番にならなければ、本物のスポットライトは当たらない。私もすべて2番手以降。決してスポットライトの当たらない選手だったから、その気持ちはよく分かる。同じように練習し、同じように鍛えて参加した。ところがいざ本番、競走となると、1歩の差で負けてしまう。この1歩が一体何を意味しているのか、読者の皆さんも不思議には思わないだろうか。

リオ五輪も盛り上がった。陸上競技の100メートル走など、100分の何秒の差で勝者と敗者が生まれる世界は興味深い/写真=Getty Images


 一方、800メートル、1500メートルなどの中長距離になってくると、また競技の流れは違ってくる・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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