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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「審判」

 

直接しゃべらずとも球審を意識してブツブツ


 今日は読者にいただいた質問から入ることにしよう。

「テレビでプロ野球観戦をしていると、バッターがヒットや四死球などで塁に出たとき、必ずといっていいほど審判に塁上で軽く会釈するシーンを目にします。審判のほうもそれを受けて、無視することなく笑顔で返しています。また、バッターがぎりぎりのストライクの判定などに審判のほうを向いて、“低い?”とか“高い?”とか聞いて確認している場面も見ます。私にはこのような選手と審判の近過ぎる距離が、試合に緊張感のない馴れ合い感を出しているような気がします。野村監督はどう思われますか?」(Sさん、50代)

 ファンの立場に立ってみれば、そうだろう。実際、野球規則にも「審判員に対する一般指示」として、冒頭部に次のように書かれている。「審判員は、競技場においては、プレーヤーと私語を交わすことなく、またコーチスボックスの中に入ったり、任務中のコーチに話しかけるようなことをしてはならない」

 しかし、やはり人間の心理として、選手は審判を味方につけたい。少なくとも、敵に回すといいことはない。特に私はキャッチャーだったから、球審は常に自分のすぐ後ろにいる。

 後ろを向いてしゃべることはなくとも、前を向いたまま、球審を意識してブツブツ独り言のようにつぶやいていた。キャッチャーとしては、審判員のクセや性格まで把握しておかなければならなかった。

 昔も個性的な審判員は大勢いた。代表的なのが、「俺がルールブックだ」の名言を持つ二出川延明さん。この人は実に威厳があった。あの大監督・鶴岡(鶴岡一人)さんが一目置いていたほどだ。二出川さんが球審を務めているときベンチからヤジると、「ヤジっちゃいかん!」と鶴岡さんに怒られた。これは余談だが、娘さんが高千穂ひづるという芸名の、大層きれいな女優さんだった。

戦争の仇を判定で討った?審判員


 しかし、私が最も印象に残っているのは、南海ホークスの大先輩でもある田川豊さんだ。戦中は陸軍の航空師団大尉として従軍経験を持つ人。戦後、鶴岡さんに口説かれ、グレートリング(のちの南海)に入団したそうだ。

 この人が球審を担当していたときのことだ。打席には阪急のスペンサー。2ストライクからの1球はボール1個分、完全に外れていた。ところが田川さん、「ストライク、アウト!!」と大きなジェスチャーで、スペンサーに見逃し三振を宣告した。誰が見ても、完全なボール球。そりゃあ、スペンサーも怒るはずだ。スペンサーが田川さんに文句を言おうとすると・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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