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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「内角打ち」

 

坂本勇人の内角打ちの巧みさは筆者も認める/写真=桜井ひとし


内角球も軽〜くさばいた『シュート打ちの名人』


 バッテリーにとって、最も難しいのは内角球の考え方、使い方だ。私自身も現役時代はもちろん、指導者として自軍のキャッチャーに配球を指導するとき、そこはしっかり叩き込んでいた。一方、バッターの立場としては、内角球に対して苦手意識を持つと、バッティングで最も大切なカベが崩れるなど、欠点が出やすくなってしまう。

 私たちの時代、『内角打ちの名人』といえば、山内一弘(元毎日ほか)さんだった。言い替えれば、『シュート打ちの名人』である。

 打席に入ると、まずバットを持つ両手首をグルグル回転させ、柔らかく力を抜いた状態にしてピッチャーの投球を待つ。ステップは狭く、重心を残した後ろ側の足を軸に、体をクルッと回して、インコースをさばく。このとき、内角高めの球に詰まっても、(右打者なら)左のヒジを突き出すようにして抜き、力を外側に逃がしてやると、バットは自然と振り切れるというわけだ。それが山内さんの内角をさばく、技術的手法だった。

 バッターは内角が来ると、どうしても力が入って、ステップが広くなってしまう。そして体が開き、ボールをフェアゾーンに運ぶのが難しくなる。山内さんのように内角をうまく打てないバッターにとって一つの対処法は、バットを短く持って対応すること。それが、私の内角打ちである。

 人間というのは、どこかにラクをしたい本能がある。苦しくなってくると、だんだん体が開いてしまうのだ。内角球に限らず何事も、ラクをしたら、いい結果は出ない。ラクをしながら難しい内角球をさばこうなど、とんでもない話である。

 私も実際45歳まで現役を続けたが、内角球の対応はどんどん苦しくなっていった。反射神経が鈍り、下半身が回らなくなってくる。体のキレが悪くなる。そして内角球に詰まり出すと、すべてに悪循環が生じてしまう。体が開いて外に届かなくなり、ついには外角まで打てなくなるのだ。行く末は、引退だ。

 キャッチャーの目から見た山内さんは・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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