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チームメートの中村剛也オリックスのペーニャと繰り広げた激しいパ・リーグ本塁打王争いは、34本塁打で決着した。シーズン途中5月にチームに合流すると、本塁打を量産。途中入団選手による本塁打王のタイトル獲得は2リーグ制後初となる快挙だ。タイトルホルダーインタビュー第1回はベネズエラの新“怪人”が帰国直前に、日本での成功の秘訣、来季について、そしてともにタイトルを獲得したチームメートの中村への特別な思いを熱く語った。
取材・構成=田辺由紀子 写真= 川口洋邦(インタビュー)、桜井ひとし、BBM 取材協力=東京ドームホテル ドゥ ミル

34本目の記憶


──今シーズン、日本でのプレーを終えての率直な感想を教えてください。

メヒア 長いシーズンのすべてのことをかい(笑)? 自分自身にとって、すごく興味深いシーズンでしたね。今年シーズンが始まったときはまだアメリカにいて、そのときはまずそこでの目標を立てていたわけだけど、それが日本に来ることになって、新しい目標、周囲からの期待はどんなものなのか……そんなことをすべて考え直す必要があったんだ。あらためて振り返ると、成績自体は残せたんじゃないかと思うけれど、相手チームのこと、ピッチャーのことなど、まだ学んでいることは多いですね。

 ただ、その中でも僕自身は成功したいという気持ちが強かったので、1試合1試合、かなり集中していたと思う。いい結果を残せた一番の要因は、集中力じゃないかな。日本の野球はハイレベルだし、選手は練習熱心だし、探究心も旺盛。僕自身、日本の生活にも慣れてきたし、日本の野球も好きなので、できるだけ長く、何年間もここでプレーしたいと思っています。まあ、総括としては、いい1年だったと思うよ。

──34本塁打でパ・リーグ最多本塁打のタイトルを獲得、おめでとうございます。この数字については、どうとらえていますか。

メヒア すばらしい数字だと思っているよ。5月に合流して、シーズン終盤は苦しんだ時期もあったので、そう考えると、34本という数字は満足しています。

──これまでに何度も報道がありましたから、すでに耳に入っているかと思いますが、シーズン途中からの加入で本塁打王獲得は日本プロ野球史上初の快挙です。

メヒア とても名誉なことだと思います。ただ、そのことについては今初めて知ったので、ちょっと信じられないんですが。まあ、そういう“初”というのは偶然の巡り合わせというか、たまたまだと思うけど(笑)、うれしいことですね。

──10月3日、最終戦の楽天戦(コボスタ宮城)で、中村剛也選手が代打で34本目の本塁打を打ったときに、メヒア選手が誰よりもうれしそうだったのがすごく印象的だったのですが、あのときの思いというのは?

メヒア 実は、それ、誰かに聞かれるんじゃないかって思っていたんだ。いい質問だよ(笑)。あのときっていうのは、ナカムラさんはケガもあって、ずっと僕らほかの選手とは別メニューで、6日間バッティング練習をしていなかったんだ。それなのに……あんなことが起きたから、本当に信じられないくらいびっくりして。だって、ピンチヒッターで出ていって、それも初球を振って、ホームランだなんて! ほんとすごい、信じられないって思ったんだ。これまで一緒にプレーしてきた選手、見てきた選手の中でも偉大なパワーヒッターだよ。ほんと、味方で良かったよね(笑)。僕らが同じチームでホームランキングを競い合えたっていうのが良かった。

 例えば、試合によってどちらかが活躍できなかった日でも、お互いを補い合えた。本塁打競争という意味では競い合っていたけれども、チームメートとして一緒にプレーできたということがチームにとっても、僕自身にとっても大きかったと思う。あの瞬間っていうのは、僕は一生忘れないと思う。将来、自分の子どもにも「ナカムラっていう選手がいて、代打で初球を振ってホームランにしたんだ。それで僕と本塁打王を取ったんだよ」って話したいね。

シーズン終盤「ナカムラさんと一緒にホームランキングのタイトルを取りたい」と言っていた、その言葉が現実のものに。四番と五番が競争しながら、それぞれを笑顔で称え合った



──その瞬間、メヒア選手が一ファンになったような。そんな口ぶりですね。

メヒア まさにそうだね。そういえば、ダイヤモンドを回ってベンチに戻ってきたとき、彼が「これで並んだね」というようなことを言ったんだ。日本語だったから、実際はどんな言葉だったかは分からないけど、多分そう言っていたと思う(笑)。ナカムラさんはすごくいい人だし、謙虚で、僕に対しても敬意を持って接してくれる。本当に尊敬しています。

──一方、メヒア選手自身の34本目というのも劇的でした。ホーム最終戦での一発で、ファンにとっても印象に残るホームランだったと思うのですが。

メヒア あの試合は2回に7点取られて負けていて、その裏にすぐに同点に追いついたんだ。僕もその回に2打点を挙げて、結局同点にできたから、チーム全体もファンも盛り上がった。だから、次の打席も気分よく入れたっていうのもありましたね。ホームゲームの最終戦で、ファンも負けて帰るのと、勝って帰るのでは全然気分が違うだろう? そこで逆転のホームランが打てたっていうのは、やはり記憶に残る一打になりましたね。

34本目の本塁打は10月2日のホーム最終戦。その打棒でスタンドを埋めたファンに、うれしい勝利を届けた



──本塁打数も素晴らしかったのですが、そのほかの数字についてどのようにご自身で評価していますか。打率は9月中旬まで3割をキープしていましたが最後は・290、打点は73。シーズン途中にはあまり数字については触れたくないという話をされていましたので、ぜひうかがいたいと思います。

メヒア 選手によってそれぞれだと思いますが、もちろん打点、打率も重要だと思う。僕自身は常に3割近辺を狙ってはいます。ただ大事なのは、そういったバッティングを心掛けながらも、チームがどうやって勝つかということ。自分自身がいかにチームの勝利に貢献できるか。数字的なことで言えば、どんな選手でも3割、30本塁打、100打点を目指すのは同じだと思うけど、それは簡単なことじゃないよ。このシーズンの数字、内容ということなら、満足していると言っていいでしょう。でも同時に、自分はもっと上を目指せるとも思います。

プライスレスな経験と環境


──さきほど「苦しい時期もあった」という話をされていましたが、具体的にどんな要因があったのでしょうか。

メヒア 9月はなかなか結果が出なかったからね。要因? 言い訳はしたくないし、ピッチャーはバッターからアウトを取るのが仕事だからね。その1カ月は何が起きていたのか自分でも分からないけど、良くなかったんだ。

──シーズン後半は相手チームから研究されたり、攻め方が変わったりという印象もありました。

メヒア それはあるね。ほかのチームがたとえば……あるときまではある戦略を立てて投げてきていたように見えたけど、あるときからはまたまったく違う戦略で投げてきていたようにも感じたからね。

──そういったことに対しては、やはりストレスはあったのでしょうか?

メヒア 少しはあったね。バッターならできるだけ打ちたいと思うものだし、少しイライラしたところはあったかもしれません。ただ、最後の3、4試合はリラックスしてやろうと決めて、楽しむように打席に入ったんだ。それで、いい結果になったんじゃないかな。

──本塁打王争いで注目されたことで、プレッシャーを感じたということはありましたか。

メヒア いや、それはそんなには感じなかったよ。けっこう始めのころからそういったことを言われていたからね。終盤はその頻度が上がってきただけであって、それでプレッシャーを感じたということはないですね。まあ、34本で止まったというのは、自分自身、(タイトルを)ちょっと意識し過ぎたのかもしれないですが。

──田辺監督は、メヒア選手がシーズン途中に外角球の見極めをするために打席でかがまずに棒立ちのように立つという修正をしたとおっしゃっていたようです。

メヒア そういった修正などはけっこうやっていましたね。ボールを見極めるという意味では、いくつかの打席ではボールを見るということに重点を置いたこともありました。

──そのほかに日本のピッチャーに対応するために何か修正したポイントなどはありますか。

メヒア そんなには……。というか、手の内はすべては言わないよ(笑)。ほかのチームのピッチャーが読んだら困るからね(笑)。

──胸元付近のボールをとらえる技術とパワーがメヒア選手のバッティングの特徴と中村選手は分析しているようですが、ここでは逆にメヒア選手に中村選手のバッティングを解説していただきたいのですが。

メヒア すごくショートスイング、つまりトップからコンパクトにバットが出てくるんだ。彼のスイングは信じられないくらいのショートスイングだと思う。コンパクトに軽く振って、ピュって打球が飛んで行くんだ。僕もどちらかというとコンパクトに振る方だと思うけど、彼よりはバットがボールに当たるまでの軌道は長いと思う。あの構えた位置から手をそれほど大きく動かすことなく振って、そこからパワーを生み出すっていうのは信じられないよね。あとは、もう何年間にもわたってピッチャーたちがみんな警戒しているのに、それでもホームランを打ち続けているっていうのが本当にすごい。




パワーとテクニックを兼ね備えたメヒアのバッティングは、日本での野球に見事に適応した。チームに合流した5月から本塁打を量産するとともに高打率をキープし続けた



──2人でホームラン談議をすることは?

メヒア たとえば「今日はオレが打つよ」とか冗談では言い合ったりはするけど、そんなに深い話はしないね。

──来シーズンも引き続きライオンズでプレーすることが決まりました。早々に契約が発表されましたが、チームに対する愛着も感じているのでしょうか。

メヒア 一緒にプレーするチームメートはもちろん、スタッフ、関係者、フロントの方々も素晴らしいサポートをしてくれて、そういったものには価値が付けられない。もちろんファンの存在も大きいですね。いいときだけでなく、状況が悪いときでも、ホーム球場だけでなくビジター球場にも来てくれて、いつも応援してくれる。それは来シーズン、ライオンズでプレーす分な理由になるよ。

──それでは、来シーズン、どんなプレーを見せてくれますか? シーズンが終わったばかりですが、何か目標のようなものは考えているのでしょうか。

メヒア 僕はあまり目標とか計画を立てる方じゃないんだ。シーズンは長いから、とにかく1日1日努力して、一生懸命プレーする。それが変わらぬ自分のスタイルです。何より一番大事なことは、ケガなく健康な体を維持すること。体が万全であれば、いろんな面でチームに貢献できるというふうに今は思っています。

──では、来年のホームランの数も?

メヒア まったく考えていないよ(笑)。

──ちなみに、オフはどのように過ごす予定ですか。

メヒア 家族とゆっくり過ごしたいね。長い1年間だったので十分に休養をとって、あとはフィジカルトレーニングをして、もっと体を強くしたいと思っています。

PROFILE

エルネスト・メヒア●1985年12月2日生まれ。ベネズエラ出身。198cm118kg。右投右打。2005年にブレーブス傘下のルーキー・リーグでデビューすると12年からは3Aでプレー。14年シーズン途中の4月30日に入団会見を行い、日本での初出場となった5月15日の日本ハム戦(札幌ドーム)で初打席の初スイングでレフトスタンドへ1号本塁打を放った。シーズン途中加入ながら、本塁打を量産し、8月にはペーニャ(オリックス)、中村剛也との三つ巴の本塁打王争い参戦に名乗り。9月7日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)で、30号に一番乗り。終盤はチームメートの中村とのデッドヒートとなったが、34本塁打で中村とともに本塁打王のタイトル獲得。途中入団での本塁打王は史上初。また同一チームから2人の本塁打王も2リーグ制以降初の記録となる。10月7日、西武より来季の契約合意が発表された。
タイトルホルダーインタビュー

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