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2020タイトルホルダーインタビュー

オリックス・山本由伸インタビュー 149を奪えた理由「2021年はすべてのタイトルを獲る。それがチームのためになる」

 

最速158キロの直球に多彩な変化球を交えて的を絞らせない。スピード&テクニックに打者も舌を巻き、奪った三振は149を数えた。そんな22歳右腕にとっての奪三振とは──。考えをひも解けば”Kの山”の理由も見えてくる。
取材・構成=鶴田成秀 写真=宮原和也、BBM

パーソル・パリーグTVとの共同企画 インタビューの模様を一部動画で配信中!(記事末尾にリンクがあります)


 最速158キロを計測する直球だが、求めるのはスピードではない。「打者の手元で伸びる」と表現する質だ。入団時からブレることのない考えを元に、20年はさらにレベルアップ。「真っすぐあっての変化球」が投球の根底にあるからこそ、新球種を使うことは急がなかった。



──いきなりですが、山本投手にとって“奪三振”とは何でしょうか。

山本 う〜ん、難しい質問ですね。なんだろう……。答えは次の質問に答える中で見つけていきます(笑)。

──分かりました。では、三振を狙って奪うことはあるのでしょうか。

山本 いや、三振を奪うことは本来の僕のスタイルではないと思うんです。球数を少なく、打たせて取るのが僕のスタイル。だから、今年(2020年)は思った以上に(三振を)取れたという感じだったんですよね。ソフトバンクの千賀(千賀滉大)さんとかもいらっしゃいますし、そもそも奪三振のタイトルは難しいと思っていましたから。

──とはいえ状況によっては三振が欲しいケースもあると思います。

山本 ありますね。ランナーが得点圏にいれば、やっぱり(三振が)欲しい。ランナーが三塁なら外野フライでも1点を取られるし、内野ゴロでも進塁を許すこともある。ランナー一塁なら三振よりも打たせることを意識しますが、やっぱり得点圏にランナーがいる場合は“欲しい”。

──実際に、走者を置いた状況で奪った41三振のうち26は得点圏の場面でした。

山本 これが最初の質問の答えになると思います。僕にとっての三振は『得点を与えないため』のアウトの奪い方です。

──なるほど。その三振を奪う上で、欠かせないものは何でしょう。

山本 やっぱりストレートです。どれだけ真っすぐで打者を圧倒できるか。それができれば、変化球でも空振りが奪える。相手は一流の打者なので変化球だけでは通用しない。だから、ストレートは一番大事で、スピードではなく“質”が大事になると思っています。

──直球の質の向上は、1年目から口にしていたことでもありますね。

山本 ずっと思っていることですが、20年は、その真っすぐの“質”が良くなったと実感していたんです。だから、三振も多く取れたのかな、と。

──“実感”というのは。

山本 19年のオフから体重移動を意識して取り組んでいて。力の伝え方というか、うまく体重移動をすれば、よりボールに力が伝わる。新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れ、全体練習もできない中でも(球団施設の)舞洲を使わせてもらったので、そこでもう一度、体重移動を意識的に取り組んだんです。そのときに感覚をつかんだんですよね。一段、質が上がった感じで。力まずに楽に(投球動作を)始動しながらリリースにかけて力を伝えていく。スピードではなく、ボールに“強さ”が出た感じなんです。

──その直球を軸にしつつ、20年は150キロを計測したフォークのほかスライダー、カットボール、カーブ、シュートと決め球も多彩でした。

山本 相手バッターのタイプもありますから、自分の選択は多いほうがいい。マウンドでも、「タテに落ちるフォークよりも横に曲がるスライダーのほうが空振りするだろうな」とか、いろいろ感じながら投げているので、球種の選択は多いほうがいい。相手も迷うことが出てくるはずですからね。


──一方で、19年のプレミア12でDeNA今永昇太投手から教わったと言っていた新球・チェンジアップは、シーズンでは投げませんでした。

山本 使わなかったですね。オープン戦では投げたんですけど、急いで必要ということではなかったんです。それにオープン戦の最終戦でも簡単に打たれてしまって。そこから(捕手が)サインを出してくれなくなったんですよね(笑)。

──首を振ってでも投じなかったのも、必要性を感じなかったから?

山本 やっぱり覚えたてのボールなので、球種の優先順位は下になる。それに落ちる球種はフォークもあるので。ただ、あきらめたわけではないんです。ここからまた時間をかけてチェンジアップを練習して、(捕手に)自信を持ってサインを出してもらって、僕自身も自信を持って投げられるボールにしていきたいです。

──まだまだ進化を続ける、と。

山本 もちろんです。

最大の目標のため目指すは“全冠”


──20年シーズンは8月末まで1カ月、勝ち星から遠ざかり、苦しい時期もあったと思います。その間「力の入れ具合を調整した」と言っていましたね。

山本 調子が悪い期間が続いた入り口が、楽天戦(7月26日=楽天生命パーク)だったんです。雨が降っていて、足元が悪く、滑るのがイヤだったので、上半身でかばって投げていたら、それが上半身の力みになって。その感覚が抜けなくて、いろいろ良くないところが出てしまった。そのバランスをなくして、リセットする意味もあって、開幕前の体重移動なども含めて、力の入れ具合を調整したんです。

──一方で、その間の7月26日〜8月25日には日本人投手最長の連続25イニング奪三振を記録しています。

山本 全然、知らなかったんです。記録を超えた試合は、連続イニングが止まった試合でもあって、その試合後の取材で報道陣の方に聞かれて知りました。知らなかったから、ここまで記録が伸びたかな、とも思っています。

──そうして149の三振を積み重ねましたが、そのうち最も三振を奪った打者が2人います。

山本 1人は楽天の鈴木大地さんですよね?

──はい。最多タイの7奪三振です。

山本 もともと苦手なバッターなので、より力を入れて投げていたんです。タイミングを取るのがうまくて良いバッター。イヤなバッターの一人なので、意識していたんですよね。

──意識していたのであれば、対戦もより印象に残っているのでは。

山本 はい。自分の中でのベスト奪三振も鈴木大地さんから奪った三振。最後の楽天戦(10月20日=楽天生命パーク)での第1打席で、インコース低めで奪った見逃し三振でした。

2020年に最も三振を奪った打者・鈴木[楽天]


──ちなみに、最多三振を奪ったもう1人の打者は分かりますか。

山本 誰だろう。ソフトバンクの選手ですよね? 甲斐(甲斐拓也)さんかな……。う〜ん、分かりません(笑)。

──甲斐選手は2位の6奪三振で、トップタイは柳田悠岐選手、それもすべて空振り三振です。

山本 え? ホントですか。全然イメージがなかったですが、見逃し三振がないのは分かります。打たれたこともあったし、なんとなく抑えたイメージはありますけど、三振を取ったイメージは全然なかったです。

──柳田選手には、鈴木選手ほどの意識はしていなかったのですね。

山本 でも、柳田さんは長打力がすごいので、より丁寧に投げることを心掛けていました。真ん中のゾーンをより避け、より“広く広く”ゾーンを使おう、と。三振の数は、その意識の結果かなとも思います。

鈴木と並び奪三振トップタイの柳田[ソフトバンク]


──そもそも奪三振のタイトルは、意識していたのでしょうか。

山本 実は最初のほうから意識していました。シーズンの最初のほうから三振の数が1位でしたし、最初のほうは防御率も悪かったので「三振を頑張ろう」と思っていたんですよね(笑)。

──ただ、防御率も9月にトップに立って、シーズン最終盤は防御率と奪三振の2部門でソフトバンクの千賀滉大投手との争いなりました。

山本 防御率は千賀さんに抜かれましたが、千賀さんの最後の3試合が、ホントにすごい投球でしたからね(計22回1/3を1失点)。もう“参りました!”という感じです(笑)。

──タイトルが懸かった千賀投手の最終登板は見ていたのでしょうか。

山本 見ていました。その前に千賀さんと連絡を取っていて「最後の試合、見ておきます」と言っていたので。防御率は抜かれましたが、まさか三振数が同じになるとは。ちょっとびっくりしましたね。千賀さんに並べて良かった。いや、並ばせていただいたと思っています(笑)。

──とはいえ山本投手がもう一度登板すれば、逆転の可能性もありましたが、下半身のコンディション不良で登板回避。投げたかった思いもあったのでは。

山本 いや、無理をする必要はないと思っていました。それに中嶋聡監督(代行)や高山(高山郁夫)コーチも、そう言ってくださりました。21年以降の先を見てくれていることがありがたかった。20年に無理してタイトルを獲っても、21年に悪い影響が出ては意味がない。だから21年はもっと頑張って、タイトルを獲りたいと思います。

まだ22歳。進化を期して21年のマウンドへ向かう


──21年は最優秀防御率のタイトル奪還を期するわけですね。

山本 防御率だけでなくて、とにかくすべてのタイトルを獲りたいです。それがチームのためにもなる。個人成績が良ければ、チームの“勝つ”という目標に貢献できると思うので。

──“すべてのタイトル”には沢村賞も含まれているのでしょうか。

山本 もちろんです。一番すごい賞なので。そこを目指して、チームの優勝に貢献できるように頑張ります。

【2020 Impressive Play】圧巻のスタート


6月21日 楽天戦(京セラドーム)

 初陣からエンジン全開だった。2020年シーズンの初登板となった楽天との開幕3戦目。初回・先頭の茂木栄五郎に対し、すべて直球で3球三振に仕留めると、続く鈴木大地にはフォークで空振り三振に。さらに三番・ブラッシュにもすべて直球の3球三振と、圧巻の立ち上がり。前日まで連敗を喫していたチームにこれ以上ない勢いを与えた。終わってみれば8回を散発3安打10奪三振で無失点。「僕自身の開幕戦。気合が入っていた」と、圧巻のスタートを切った。

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PROFILE
やまもと・よしのぶ●1998年8月17日生まれ。岡山県出身。178cm80kg。右投右打。都城高から17年ドラフト4位でオリックスに入団。1年目はファーム8試合で計33回2/3を1失点と好成績を残し、8月に一軍昇格を果たしてプロ初勝利。18年はセットアッパーとして32ホールドも、19年に先発再転向を志願して防御率1.95でタイトルを獲得し、11月のプレミア12では日本代表入り。背番号を18に変えて挑んだ20年も開幕から快投を続け、リーグ2位の防御率2.20、同トップの149奪三振をマークした。
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