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惜別球人2013

インタビュー・斉藤和巳「下してきた決断に、まったく後悔はないですね」

 


輝いた時間は、一瞬だったかもしれない。それでも強烈な存在感を放っていた。通算79勝23敗、勝率.775を誇った負けないエース。チームに求められたことに喜びを大にし、痛む右肩を顧みず、マウンドに上がり続けた。その結果、あまりにも大きな代償を払ったが、自身で下してきた決断の末に、行き着いた結末だから後悔はない。信念を貫いた男の矜持――。
取材・構成=菊池仁志、写真=湯浅芳昭、BBM

決断のシーズン


――9月28日の『感謝のセレモニー』で「幸せなことに、野球をやりたいと思わない日々が続いています」と語りました。それから2カ月が経ちますが、そろそろ、ウズウズしてきているんではないですか。

斉藤 まったく、ないです(笑)。それが自分でも不思議で、小学1年から野球を始めて以来30年、野球がある生活が普通でしたから。次第にそういう気持ちがわき起こってくるんじゃないかと思っていたんですけど、それがないことが、この決断のタイミングが良かったということの証明じゃないかと思っています。

――リハビリ期間も含めて18年、やり切った思いでしょうか。

斉藤 そう言えればカッコいいですけどね。僕の場合はこれ以上できなくなったという表現でしょう(笑)。

――07年のクライマックスシリーズでの登板を最後に、一軍での登板はかないませんでした。右肩の故障に悩まされた野球人生でしたね。

2000年6月24日のロッテ戦(福岡ドーム)でプロ初勝利。先制本塁打を放った小久保(左)とお立ち台へ。入団3年目に右肩関節唇の手術を受けた斉藤だが、小久保も同じ手術を受けて隣室で入院。リハビリも共にした


斉藤 その後、2度手術もしましたしね。毎日トレーニングをして、ケアをしてもらって、良くなったり悪くなったりしてやっと投げられる状態。2カ月ブランクがあった引退のセレモニーでは、キャッチャーに届くまでに4球かかりました。あのときさらに、やめて正解やったな、と。確信……自信……、どっちもおかしいですね(笑)。まあ、納得させてもらえる場だったということです。

――リハビリ生活を送る中で、やめる決断を下した時期があると思いますが、それは?

斉藤 昨年、今年の契約をするときに迷ったんですよ。小久保(裕紀)さんや城島(健司)さん、金本(知憲)さんといった、まだできるような超一流の方々がやめた。それなのに、こんな状態の僕がまだユニフォームを着ていていいのかって。

 それでも、球団の方々や周りの人に背中を押してもらって続けることになったんです。僕自身、そのときはやめることが現実として思えなかったこともあります。ただ、そこで1度気持ちが動いたことで、今年は今までとは違う年にしなければいけないと、腹をくくりました。

――決意のシーズンだったのですね。

斉藤 (支配下登録期限の)7月31日が期限ですから、それまでに登録されなければ、今年は終わりです。ですから、あのタイミングでの決断になりました。もう少し早く決断しないといけなかったのかもしれないですけど。

――リハビリ期間、さまざまな部分でつらいことがあったと思います。それでも耐えられるほど、もう1度、一軍のマウンドに上がりたいという思いが強かったのでしょう。

斉藤 2010年に右肩に3度目のメスを入れたのですが、やってしまうと長期間のリハビリが必要だと分かっていたので、数カ月悩みました。それでも手術したのは球団をはじめとした、多くの方のバックアップをいただけたから。ここまできたら心身共にボロボロになるまでやろうと。時間がある限り、自分に可能性を感じる限りは続けてやろうとは思っていました。

今年の春季キャンプでは連日のブルペン入りで、再度の支配下登録に意欲を見せた


――そうした日々から解放されて、最近の楽しみは?

斉藤 ゴルフをよくやらせてもらっています。ただ、次の日とかはちょっと右肩がうずいたりするんですよね。でも、ケガしているときはやりたくてもずっとガマンしていたんで、今は目いっぱいやらせてもらっています(笑)。

――飛距離がスゴイと聞いています。

斉藤 いやいや(笑)。当たればですよ。確率がすごく悪い。でも思いどおりにならないところも含めて楽しいです

己を知ること


初の開幕投手を務めた03年は20勝を挙げてタイトルを総ナメ。リーグ優勝、日本一に大きく貢献。写真は開幕戦勝利を挙げ、王貞治監督とともに


――03年に先発ローテーションに定着して20勝。以降、4年連続2ケタ勝利を挙げる過程で、エースという目で見られるようになりました。その中で、右肩の状態が悪くてもマウンドに上がっていたわけですが。

斉藤 とても充実した時間でしたね・・・

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惜しまれながらユニフォームを脱いだ選手へのインタビュー。入団から引退までの軌跡をたどる。

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