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惜別球人2013

インタビュー・嶋重宣 喜びも悔しさも

 


すっきりとした表情で語った引退会見。そして、こみ上げる涙をこらえた引退スピーチ。2つのシーンは、まさに笑顔も涙もあった自身の野球人生を象徴するかのようだった。ケガに苦しみ、投手から野手へと転向。苦労の末に首位打者のタイトルも獲得した。喜びも悔しさもすべて野球が教えてくれた。

取材・構成=田辺由紀子 写真=BBM

※本文の最後に嶋重宣氏の直筆メッセージ入りサイン色紙プレゼント応募についてお知らせがございます

引退式でのサプライズ

────ファンへ引退の挨拶をなさった11月23日のファン感謝デーでは、涙ぐんでいましたね。

 泣かないつもりだったんですけどね。やっぱり19年もやっていると、つらい練習をした記憶とか思い浮かんでくるんですよ。きつい練習をして、それでやっと一軍の舞台でやれたという喜びもあった一方で、西武での2年間があまりにも自分にとってつらかった。それで涙がこみ上げてきたんです。

――確かに、西武での2年間に話が及んだときに、こみ上げて……。

 そうです。この2年間が精神的にも肉体的にもつらかった。自分が情けないなという思い。これだけ必死でいろんなことをやってきたのに、結局、一軍に上がれんかったんかっていう、自分に対する悔しさがあったんですね。それでこみ上げてきて……。そんな予定ではなかったんですけど(笑)。

──あそこで話す前はそんな感じではなかった。

 全然。引退会見も本当にすっきりしていて、プレーしないことに対しても寂しさはなくて。それが挨拶となったら、違いましたね(笑)。両親も、嫁も、子どももみんな来ていたので、そういうところでぐっときたところもありましたね。



――あらためて引退を決めるまでの経緯をうかがいたいのですが。

 トレードで来たときから、西武でやめる、ここでダメだったらやめようというふうには思っていました。実際、1年目も良くなかったし、13年は途中、二軍では良かったんですけど、それでも(一軍に)呼ばれることはなかったんで。

 シーズン途中……9月くらいかな、そのころからそろそろ潮時かなと。家族とも、そのころからその話になりましたし、もちろん「クライマックス(シリーズ)もあるかもしれないし、代打で呼ばれるかもしれないから」と準備はしていましたけど。

 でもだんだん、自分の中での心境の変化があることに気付いたんですよね。二軍で戦っているメンバーが一軍に上がっていくとき、普通だったら、もっと悔しく思うはずなのに、悔しくなかったというか。

 以前だったらファームでも若い子がヒットとかホームランを打ったら、「アイツが打つんだったら、絶対に負けんぞ」と。二軍の世界って、結果を出さないと一軍に上がれないわけですから、そういう気持ちが大事なわけですけど、それが「コイツ、いいバッティングしてるな」とか納得している自分がいたりして。

――そこが「潮時」と感じた理由だと。

 特に自分はそういう“気持ち”が表に出るタイプではないんですけど、ユニフォームを着たときだけは人間が変わらなきゃダメだという強い思いがあって野球をやってきたんです。そこに別な気持ちが出てきた。だから、一軍に上がれないということ、そして気持ちの変化という2つが重なって、引退を決めました。

――新聞では「現役続行を希望か」という記事もありましたが。

 いや、一切それについては話をしていないのに、記事に出てしまって。それで、戦力外通告されたから引退したと思っている人もいるみたいなんですけど……。

──それは不本意ですよね。

 ……とも思っていたんですけど、まあ、外からどう思われてもいいかなと(笑)。

──秋季キャンプからはすでにコーチとしての仕事も始まりました。生活面からも、現役時代との違いを実感するのではないかと思いますが。

 オフシーズンがね、暇です(笑)。選手のときというのは、特にベテランになればなるほどオフはほとんどないんです。体を動かさないと不安なんですよ。毎日グラウンドに来て、練習をして帰るという日課があるんですけど、今はやることがないというか。オフの過ごし方が分からない(笑)。

 朝起きて、子どもを見送って、「あれ? 何しよう?」みたいな。そこで、「もう現役を引退したんだ」とあらためて感じます。ちょっと寂しさに浸るときもありますよ。結局、畑で野菜に水をやったりしています(笑)。本当は、体を動かしておかないといけないと思っているんですけど、コーチは、オフは選手と接触するのは良くないので、個人的にやれる場所を探しているところです。

惜別球人

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惜しまれながらユニフォームを脱いだ選手へのインタビュー。入団から引退までの軌跡をたどる。

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