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惜別球人2022

巨人・井納翔一 引退惜別インタビュー 濃密なる10年間「経験を伝えていきたいと思わせてくれる10年間、いい野球人生だった」

 

奇想天外な言動で「宇宙人」と呼ばれ、ファンに愛されてきたが、社会人時代に得た気づきから、野球に対しては真摯に向き合ってきた。27歳になる年に飛び込んだプロの世界での10年間の経験は、これからの新たなスタートにおける大きな糧となる。
取材・構成=杉浦多夢、写真=桜井ひとし、BBM


27歳からのスタート


 プロの世界にたどり着くまでに、長い時間が掛かってしまった。プロへの道をあきらめかけた社会人4年目についにブレークを果たすと、DeNAとなって2年目のベイスターズに入団。27歳を迎えるオールドルーキーは、150キロを超えるストレートと自慢のスプリットで、瞬く間にチームの中心選手となっていき、4年目の2016年には開幕投手を任されるまでに成長を遂げた。

――昨年末に引退を表明してから少し時間がたちました。今の心境は。

井納 まだ野球をやりたいという気持ちがないかと言えば、ありますけど。ベイスターズに26歳のときに獲っていただき、FAを取得したときも巨人に34歳という年齢で獲っていただいて、2年間やらせていただいた。結果はどうあれ、最終的にプロ野球という世界で10年間もやることができましたし、感謝の気持ちが大きいですね。

――戦力外通告を受けてからトライアウトにチャレンジしました。

井納 36歳という年齢で、この2年間は巨人でしっかり投げることもできていなかった。トライアウトを受ける時点で可能性はほとんどないだろうな、と思っていました。ただ、まだ投げることはできたので、やれるだけやってみようと。

――昨年の12月27日に引退することを表明しました。

井納 最初は引退って言うつもりは正直なかったんです。スーッと退こうと思っていたんですけど、周囲の方から「誰にも知られていない選手ではないのだから、ちゃんと伝えたほうがいいよ」と言ってもらったので、トークショーに出ることが決まっていたその日に発表することにしました。

――最初におっしゃったように2013年、27歳になるシーズンからプロ野球人生がスタートしました。

井納 大学からプロに行きたい気持ちもありましたが、社会人で実績を積んで、ドラフト上位でプロの世界に行ったほうがいい、チャンスが広がるとアドバイスをしてもらって。ただ、当時の自分は今振り返るとすごく天狗になっていたと思います。野球に対しての考え方とかも甘かったと思いますし、自由にやらせてもらった結果、社会人1年目はまったく成績を残すことができなかった。ようやく2年目から気づくことができました。しっかり野球に向き合うようになり、イチからコーチに指導を受けて、少しは変わっていくことができたんじゃないかな、と思います。

――それが社会人4年目でのブレークにつながったのですね。

井納 運もよかったです。3年目が終わったときにクビになってもおかしくなかったところを、1学年下の小石くん(小石博孝、元西武)がプロに行って、枠が一つ空いたことで残ることができた。ただ、そのときは年齢的にもプロに行くのは厳しいと思っていたので、NTT東日本で長く野球をやろう、という気持ちになっていたんです。そうしたら地方大会や都市対抗で結果が出て、スカウトの方に見てもらうことができました。

――プロ初登板は13年4月4日、奇しくも横浜スタジアムでの巨人戦でした。

井納 印象に残っていますね。第1打席で澤村拓一の152キロが外角にピッタピタに来た。「これがプロのピッチャーか!」って思いましたね。

――投球より打席での印象のほうが強いのですね。

井納 当時の巨人は本当に常勝チームでしたからね。簡単には抑えられない(5回5失点で敗戦投手)。ただ、プロに入る前から見ていた選手たちとの対戦だったので、すごく気合いは入っていました。

――1年目からプロでやっていける手応えはつかめたのでしょうか。

井納 社会人で4年間やってきて1年しか結果は出せなかったんですけど、なぜか自信だけはあったんですよね。というよりも、親はプロには行かずNTT東日本で続けてほしかったみたいで、「自信があるから」と言って納得してもらったところもあるので。

――2年目の14年は2ケタ11勝を挙げ、オールスターにも出場しました。

井納 もちろん11勝9敗という数字はいいのかもしれないですし、イニングも投げることができましたけど、野手に助けられたシーズンでした。防御率は4点台でしたから。野手に勝たせてもらった試合がほとんどです。やはり自分自身でできるところというのは・・・

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惜しまれながらユニフォームを脱いだ選手へのインタビュー。入団から引退までの軌跡をたどる。

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