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惜別球人2023

松田宣浩(元巨人ほか) 引退惜別インタビュー 熱男の矜持「スーパースターのような数字は残せなかったけど、こんなに幸せな野球選手はいない――」

 

球界きっての元気印、明るいキャラクターとひたむきなプレーで、球団の枠を超えて愛された。常勝軍団のリーダーの1人として、6度のリーグ優勝、7度の日本一に導いた「熱男」は、「40歳でプレーする」という自らの目標をクリアし、18年間のプロ野球生活に別れを告げた。
取材・構成=杉浦多夢 写真=長尾亜紀、高塩隆、BBM


40歳まで現役で


 涙が止まらなかった。そして、最後は笑顔があふれた。10月1日、東京ドームでのヤクルト戦後に行われた引退セレモニー。スピーチの間も、場内を一周しているときも、ソフトバンクのユニフォーム姿も交じるファンからの声援が飛ぶたびに、涙があふれる。割れんばかりの「熱男」コールに応えるように、ファンとともに、笑顔で最後の「熱男」パフォーマンスを披露した。

――引退セレモニーから少し時間がたちました。あらためて引退の実感は湧いていますか。

松田 体は元気だし、痛いところもなくユニフォームを脱ぐことができたので。5年や10年ではなく、18年もやらせていただいて、人生の大半を野球選手として過ごしてきたので、朝起きて、野球選手じゃない現実、終わったんだなという感じが一番大きいですね。僕の中ではやり切ったという思いが強いです。

――そう思うことができたのは。

松田 昨年、ホークスを退団するときが39歳だったので、「やめ切れない」という思いがありました。やっぱり40歳までやりたいという一番の目標がありましたから。ジャイアンツとのご縁で1年間だけでしたけど、やらせてもらって、僕の中では1年と言わず一日一日が勝負でしたし、5月17日(誕生日)を迎えて40歳のときに野球選手であることができれば、いつやめてもいいというくらいの気持ちでした。もちろん選手なので、結果を出さなければいけないという思いでやっていましたけど、9月の頭に2度目の二軍落ちとなったときに、シーズンも残り1カ月でしたし、妻に引退の思いを伝えて、9月末のDeNAとの3連戦のあとに、原(原辰徳)監督にも伝えさせていただきました。

――40歳までという思いは、いつごろ芽生えたのでしょうか。

松田 1年目の宮崎でのキャンプのときに、体や元気というのは自分でも自信があったんですけど、コーチから「40歳までやるための基礎を今、つくろう。技術をつけよう」と言ってもらって。そのときから漠然と「40歳」という言葉が頭に残っていて、25歳になったときも、30歳になったときも、35歳になったときもその思いが変わらなかった。成績が出ているときも、出ていないときも、「40歳まで現役でいる」というのは自分の中にありました。

――その思いがあるがゆえに、ソフトバンクでの晩年というのは成績的にもつらい時期だったのでは。

松田 それは勝負の世界なので、という思いもあったんですけど、それでも40までやりたかったんですよ。「あと1年」と思っていたけど、かなわなかったので、自分の希望で退団させていただきました。

――最後は涙の引退セレモニーになりました。

松田 1年でヒット1本しか打っていない自分に、あのようなセレモニーをしていただけるとは思ってもいなかったですし、感謝の気持ちでいっぱいです。原監督に「ジャイアンツでは1年だったけど、18年間、野球界のために力を尽くした。野球人として最後の舞台としてセレモニーを用意した」と言っていただけたので、うれしかったです。ホークス一筋で終わればよかったと言う人もいますし、正解はないと思うんですけど、小さいころからあこがれていたジャイアンツで40歳までプレーできたというのは、よかったと思います。

――巨人では二軍で過ごす時間が長かったですが、だからこそあらためて松田さんの「声」がフォーカスされたのかなと思います。

松田 キャンプインの前日に「静かにいったほうがいいかな」という思いもあったんです。でも、今までやってきたことが評価された以上、声を出すことも含めたプレースタイルは変えてはいけない。そのことを一軍、二軍問わずにやり切れたし、伝えることができた。プロ野球は結果が大事な世界ですし、結果が出なかったのでユニフォームを脱ぐんですけど、そこだけは自信を持っていいかなと思います。

常勝軍団の礎


 6度のリーグ優勝、7度の日本一。数多の栄光に浴してきた。勝つことで、さらなる勝利を欲し、チームがより上を目指していく好循環。常勝軍団ソフトバンクでは、常にその先頭に立ってチームをけん引した。

――ファンでもあった巨人へのものとは違った大きな思いが、ソフトバンクに対してはあると思います。

松田 いいときも悪いときもありましたし・・・

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惜しまれながらユニフォームを脱いだ選手へのインタビュー。入団から引退までの軌跡をたどる。

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