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惜別球人2023

一岡竜司(元広島ほか) 引退惜別インタビュー 最後までこだわり抜いて「ここ3年間なかなか一軍で投げられない中で、もがく時間をもらった。契約を続けてくれた球団に感謝の思い」

 

運命を変えた2013年オフ。導かれた広島の地で、かけがえのないものを得た。強い思いを持つストレートでリーグ3連覇を果たし、強い思いを持つストレートで現役引退を決めた。感謝の思いを胸に、新たなスタートを切る。
取材・構成=菅原梨恵 写真=牛島寿人、BBM

自身の決断に悔いはない。引退記者会見での表情も実に晴れやかだった


試行錯誤の末に


 専門学校(沖データコンピュータ教育学院)からプロの世界に飛び込んで12年がたった。巨人で2年間、広島で10年間。移籍の理由は、大竹寛のFA移籍に伴う人的補償だった。予期せぬ出来事ではあったが、時を経て2023年限りでユニフォームを脱ぐ一岡竜司は「僕は幸せ者」とほほ笑む。10月1日に行われた引退記者会見、阪神戦(マツダ広島)での現役最後の登板、試合後のセレモニーでも、右腕が見せる充実感に満ちあふれた表情が印象的だった。

――約2カ月がたちましたが、現役引退を実感する瞬間はありますか。

一岡 運動しなくなったので、夜、寝られなくなったのと、あとは食器洗い。右腕、指先に気を使わなくてよくなりましたね(笑)。新鮮な気持ちもあります。

――23年限りで引退を決めた理由については、会見の席で「ここ2、3年、一軍の戦力になっていなかった」と。引退を具体的なもの、はっきりと意識したのは、いつごろですか。

一岡 もう終わりそうというのは、2020年ぐらいには思い始めていて。21年に一軍の登板がゼロに終わって、そこで「厳しいな」と。でも、もう一度、最後に一軍で投げたいという思いがあったんです。その中で迎えた22年、新型コロナウイルスの特例抹消の兼ね合いもあって、一軍で10試合に投げることができた。そこで満足した気持ちもありました。いずれにしても、20年の中盤ぐらいから、僕の理想というか、一番いいときの真っすぐが投げられなくなっていた。そこでもう、完全にそういう方向の気持ちは持っていましたね。

――一岡さんと言えば、ストレートにずっとこだわりを持ってやってきました。以前から「このストレートが通用しなくなったら終わり」という気持ちだったのでしょうか。

一岡 結局、何が良くてプロに入ったのか分からないピッチャーになりたくないと思っていたんです。その上で、長く現役を続けたかったのは確か。だから、真っすぐが厳しくなっても、四隅のコースを突いてとか、緩急をうまく使ってとか、いろいろとトライはしてみました。ただ、コントロールはもともとないタイプだったので(苦笑)。プロの世界にはコントロールを売りとして入ってきたピッチャーもいるわけじゃないですか。その人たちには到底勝てないな、と。追いつかないし追い越せないし、ちょっと中途半端だなというのもあって。だからこそ、真っすぐが厳しくなったら終わりだなとは、あらためて感じていましたね。

――会見でも今も話に出ましたが、試行錯誤があった、と。自分のスタイルを変えることに抵抗はありませんでしたか。

一岡 自分の中では、横から投げろと言われたら横から投げるぐらいの思いだったんですよ。ストレートに対しては強い思いがありましたけど、投げ方や投球スタイルには、そんなにプライドはなかった。むしろ、いろいろなことをやり過ぎて崩れてしまうタイプ。1球1球違うフォームで投げたり、小細工をして投げていましたが、やり過ぎてしまって……というところもあったので。そこは難しいところだったかな。

――結局はうまくいかなかった、と。

一岡 22年に一軍で投げて、すっきりした気持ちとともに「意外とイケたじゃん」という気持ちもあったんです。ちょっと気持ち的に盛り返していたところはあるんですけど、23年に入ってからは二軍戦で投げていてもバッターの反応が……。チャンスピッチャーになっていたので(苦笑)。マウンドにいながら「ここで終わりだな」というのは、めちゃくちゃ感じていましたね。

――だからこそ、引退するにあたって「後悔は不思議なぐらい、ない」と言い切ったわけですね。

一岡 悔いはないです! ここ3年間、なかなか一軍で投げられない中で、もがく時間をもらった。契約を続けてくれた球団に感謝の思いです。

――自分が納得するストレートが投げられなくなった最大の要因は何だと思いますか。

一岡 球速を求め過ぎた、というところもあるかもしれないです。もともと、一番いいときのは140キロ台後半ぐらいの真っすぐで。何ていうか、キレイな真っすぐというのが特徴としてあったんですけど、周りに速いピッチャーがどんどんと出てくる中で、自分もスピードを意識するようになってしまった。そこは反省でもあります。

――球速を求めるようになっていたのは、いつごろですか。

一岡 どうですかね・・・

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惜しまれながらユニフォームを脱いだ選手へのインタビュー。入団から引退までの軌跡をたどる。

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