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惜別球人2024

立岡宗一郎(元巨人ほか) 引退惜別インタビュー 覚悟を決めた仕事人「16年はあっという間の感じのほうが強い。どんなときもがむしゃらに突っ走ってきたから」

 

右打ちの内野手としてプロの世界に飛び込んだ男は、いつしか左打ちの外野手へと変貌を遂げていた。度重なるケガに悩まされながら、そのたびに不屈のメンタルで復活を遂げてきた仕事人。東京ドームで浴びた大声援への感謝を胸に秘め、指導者として新たな道を歩んでいくことを決断した。
取材・構成=杉浦多夢 写真=BBM


ベースをつくってくれたソフトバンクでの3年半


 プロの世界に飛び込んだソフトバンクで、強者たちの姿を目の当たりにした。だが、そこから逃げることはなかった。「俺は下手なんだ、もっと練習しなきゃ」。そのマインドが常にベースにあったからこそ、16年間というプロ野球生活を全うすることができた。

――すでに三軍外野守備兼走塁コーチとして再出発をしていますが、現役を退いた実感はありますか。

立岡 選手を終えてからコーチになるまでの期間がすごく短かったですからね。「秋季練習から出てほしい」ということだったので。また来シーズンの公式戦が始まって、そこに自分が出てないなってなったときにどう思うのか、そんな感じですね。もう選手を教えることに一生懸命になっているので、気持ちは完全にそっちを向いています。

――引退を決断したのは、どのタイミングだったのでしょうか。

立岡 ドラフト会議のあとくらいですね。球団と話をする中で「来年はコーチとしてやってくれないか」と言われて。現役を続けたいのであればほかの球団を探すという流れになったと思うんですけど。妻や両親にも相談というか報告をしたときに、親父の一言目が「もういいよ、よくやったよ」というものだったんです。僕の親父はけっこう頑固者の“ザ・九州の親父”という感じの人なんですけど、まさかそういう言葉が出てくるとは思っていなくて。「頑張れ」とか「もう少し現役選手として見たい」とか、そういうことを言われるんだろうなと思っていたから、けっこう心に刺さったんです。僕がケガで苦しんでいる姿も見てきたからこその言葉だと思うんですけど、その言葉を聞いて「よくやったんだ、俺」というふうに思えましたね。

――紆余曲折のあった16年間でしたが、長かったのか、それともあっという間の16年だったのか。

立岡 どちらもありますけど、あっという間の感じのほうが強いですかね。どんなときもがむしゃらに突っ走ってきましたから。

――その中でソフトバンクでの最初の3年半というのはどういった時間でしたか。

立岡 野球に対する考え方や、ベースをつくってくれた時間ですね。1年目のキャンプ初日の午後の練習が始まるころには、もうすでにちょっと心が折れていました。もともとホークスは大好きだったんですけど、一部のレギュラークラスの選手しか分からなくて。でもいざキャンプインしてファームの皆さんのバッティング練習を見たときに「何だこれ!?」って。フライは高いし、面白いようにボールが飛んでいく。「これ、一軍の選手だとどうなっちゃうんだ」っていう衝撃は忘れられません。

――そこから心が折れることなく励んでいけた、と。

立岡 何度も折れましたよ(笑)。ひとつ上に高卒2年目の中村晃さんがいらっしゃってずっと見ていくことになるんですけど、確かその年にファームで打率3割を打ってるんですよね(.316)。「来年、あの人みたいに打てるようになるのかな」と思いながら取り組んでたら、ひとつ下で今宮健太が入ってきて、いきなりすごい守備をしていた。その次のドラフトでは柳田(柳田悠岐)さんが入ってきて、そういうメンバーを目の前で見て、「どうやったら勝てるんだろう」「俺は下手だ、練習しなきゃ」って。

――追いつかなければ、というメンタルになれたのですね。

立岡 その環境から僕は逃げなかったので、ここまでやることができたのかなっていうのはありますね。中村晃さんや柳田さんのバッティング、今宮の守備を目の前で見て、「俺は下手なんだ、もっと練習しなきゃ」って、そのままずっと駆け抜けてきた感じです。

――その中で4年目、2012年のシーズン途中にトレードで巨人へ移籍することになりました。

立岡 やっぱりトレードというものに僕はマイナスのイメージがあったので、「ソフトバンクは俺のことがいらないんだ」と思ってしまいましたし、皆さんにあいさつするときも大号泣した記憶があるんですけど。ただ・・・

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惜しまれながらユニフォームを脱いだ選手へのインタビュー。入団から引退までの軌跡をたどる。

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