仲間思いで豪快。チームメートは口をそろえて「漢(おとこ)」と慕う。グラウンドに出れば熱いプレーと元気な声でチームをけん引し、スタンドを何度も沸かせてきた。一番打者として球団初のリーグ優勝、日本一に貢献したV戦士がまた一人、ユニフォームを脱ぐ。 取材・文=阿部ちはる 写真=井田新輔、BBM 一度は拒否した守備 監督に背中を押されて
泥臭く、がむしゃらなプレーがタケローのトレードマークだ。年齢を重ねても一切変わることはなく、バットを置くその日も全力プレーを貫いた。10月4日の西武戦、満員御礼となった楽天モバイルで岡島豪郎の引退試合が行われ、その最後の雄姿にベンチもスタンドも、そして本人も涙を抑えることはできなかった。仲間に愛されファンを魅了し続けた男の14年間。その日々をゆっくりと振り返ってもらった。 ――現役生活お疲れさまでした。引退会見で「未練はない」と話していたとおり表情がとてもすっきりしていますね。あらためて引退に至った経緯を聞かせてください。
岡島 今年の5月か6月くらいから思っているように体が動かないなと感じていました。こうなれば良くなるんだろうなと頭では理解しているのですが、実際にそれが表現できなくなったというのが一番かなと。1年間やっていたら絶対に波はあって、これまでならいい時期が2週間とか1カ月続いて、その好調の波が長ければ長いほどレギュラーがつかめていくのですが、今年はいい状態が続かなかった。今日はいいなと思っても次の日にはまた下がってしまうんです。それがメンタル的にきつかったですね。球団には9月に伝えましたがこれまでずっと、「毎日、いつ終わってもいい」という気持ちでやっていましたから、そのときにはすっきりと決断できましたね。
――引退試合では最後の打席のあと、長く守ってきた右翼守備に就き、さらに
大勢の楽天ファンが待つ左翼にも就く粋な演出でした。
岡島 本当に良くしていただき、いい思い出になりました。名前が
コールされたときの声援を忘れることはないです。今もぱっと思い出せるくらいはっきりと鮮明に覚えています。こういう場をつくってもらえたことに球団には本当に感謝していますし、あの景色を忘れることはできないですね。とても特別な1日になりました。ファンの方にもありがとうという気持ちでいっぱいです。
――8回に
村林一輝選手の代打で登場しました。打席に入る前から込み上げるものもある中、同じ群馬県出身の
高橋光成投手から中前打。素晴らしい一打でした。
岡島 試合前まではあまり意識していなかったんです。でもいざグラウンドに出てみたら、『これで最後なんだ』と。もうここに立つことはないんだと思ったら自然と涙が出てきて。(涙で)あまり見えていなかったのですがバットに当たってくれてよかったです。高橋君には気を使っていただき感謝ですね。
――右翼、左翼から見た景色も特別だったのではないでしょうか。
岡島 そうですね。実は三木(
三木肇)監督から提案されたときには『肩が痛いので守備はいいです』と断っていたんです。ですが『タケ、今日はお前の日なんだから絶対に就いたほうがいい』と言っていただき、その言葉に甘えさせていただいたのですが、本当に「守備に就いてよかったな」と心から思いましたね。監督が背中を押してくれなかったらあの景色を見ることはできなかったので、すごく感謝しています。
――左翼の守備に就いたときにはレフトスタンドからの大歓声もありました。
岡島 あの声援を聞くと本当に泣きそうになるんですよ。これがもう聞くことができないと思うと……。自分だけに向けられたあの大歓声は二度と味わうことはできないですからね。一生に一度の最高の思い出です。
泣けなかった日本一 喜びと少しの寂しさ
2012年にドラフト4位で捕手として入団するも、当時正捕手を務めていた嶋基宏(現中日コーチ)の存在は絶大で、出場機会は限られていた。そこで外野守備にも取り組むと、2年目の7月29日、岩手県で開かれた決起集会で思い切った行動に出る。当時監督を務めていた星野仙一氏に「どこでもいいので使ってください!」と直談判。その言葉が岡島の野球人生を大きく変えた。 ――プロ野球人生の大きなターニングポイントに星野監督への直談判があります。プロ2年目での勇気ある行動でした。
岡島 僕も今だったら行かないですね(笑)。2年目で怖さも知らなかった。ただただ思いっきり、常に全力で過ごしていた中でしたから、勢いで『俺、行くわ!』と。当時の外野守備走塁コーチだった
米村理さんから監督に話はしてあったと思うんですよね。その上で『外野でやらせてくださいと言ってこい』と背中を押してくださった。僕はお酒が飲めないのですが、その日は結構、飲みました(笑)。
――その日に提案されて言いに行ったのですか?
岡島 はい。僕はバッティングでは・・・
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