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2014ドラフト指名選手クローズアップ

楽天5位 入野貴大投手 家族からの言葉を胸に

 

先週号から始まった本連載の第2回は、東北楽天から5位指名を受けた入野貴大。四国アイランドリーグで今季MVPに選出された右腕は、「最後」のドラフトにかけていた。家族の大きな支えにより、ここまで歩んで来ることができた。四国を代表する投手が東北で花を咲かす。
文=高田博史 写真=山田次郎

楽天から5位指名を受けた瞬間、安堵の表情を浮かべる入野。四国を代表する右腕のNPBでの挑戦が始まった



最後の練習の可能性


 ドラフト当日の朝も、入野貴大は昨日と同じように練習グラウンドを走っていた。徳島インディゴソックスの秋季練習は、すでに自由参加となっている。来季に向けて黙々とトレーニングを続ける選手たちのなか、スタート地点である右翼ファウルライン辺りまで戻り、息を整えながらひと言呟いた。

「もう、これが最後の練習になるかも分かれへんからなあ……」

 明日、プロ野球選手としての自分は存在するのか。それとも野球を辞めることになった自分がいるのか。考えたところでしょうがない。緊張と不安を振り払うかのように、また芝生の上を走り出した。

「すごく緊張していました。『指名されなかったらどうしよう』とは考えていなかった。とりあえず、指名されてからの生活をどうするかしか考えていなかったので」

 指名されれば、明日もこのグラウンドを走る。来年、NPBでプレーするために。

 アイランドリーガーとなったのは2008年、19歳のときである。高校卒業後、プロ野球選手を目指して入学した専門学校が1年で消滅し、翌年愛媛に入団した。3年目の10年、自己最多の7勝を挙げる。ドラフト候補として名前が挙がり始めたのは、セットアッパーを務めていた11年から。だが、実際に指名されることは一度もなく“候補”の域を出ることはなかった。

 1つの転機は13年、愛媛から徳島へ移籍したことだ。島田直也監督の下、セットアッパーとして39試合に登板し、3勝0敗1セーブ、防御率0.81という好成績を残す。この年、徳島の年間総合優勝に大きく貢献している。

 しかし、それでもドラフト指名には至らず、6年目を終えた。その年の11月、大きなターニングポイントがあった。

「親には『1年徳島行って辞める』みたいなことを言ってたんですよ。で、シーズンが終わって『辞めるって言ってたけど、まだやりたいな』となった。僕はやるつもりでいたし」

 母・理美さんから携帯に「よく頑張ったね」とメールが届いている。これまでなら「やれるところまでやったらいいやん!」と背中を押してくれていた母の言葉が、労いに変わった。もう6年間も挑戦させてもらった。「もういいかな」と思う気持ちはある。でも、まだやりたい。迷っていた。

「まだ伸びていたので、自分が。6年経ってもMAXを更新(146キロ)しているし。自分の中でも一番ぐらいの成績を残して『ここで辞めたらもったいない!』と思っていました」

 高知の実家に帰り、直談判に出た。返って来たのは思ってもみなかった母のセリフだった。

「いま辞めたらあんた、じいちゃんもばあちゃんも悲しむで! あんたの野球やってる姿見るのが私たちの楽しみなんやから。私たちの楽しみがなくなる!」

 好きなことばかりやってきて「迷惑かけてごめん」と思っていた。高知球場での試合には家族が見に来てくれる。父方の祖父、祖母に至っては、徳島まで車を飛ばして球場に駆けつけてくれる。アイランドリーガー・貴大を応援することが家族の大きな楽しみであり、喜びとなっていた。みんなが応援してくれていた。

 14年、島田監督は投手陣に向かって、口癖のようにこう話していた。「打たれて覚えろ!」

 オープン戦での課題は立ち上がりだった。初回に四球を連発して失点を許したあと、2回以降は連続三振を奪い、ゼロ行進を続ける。そんな不安定さがあった。

 だが、開幕から先発に回ったことできっかけをつかむ。試合の中で良いバランスの投球フォームを見つけ、制球力が格段に上がった。今季の与四死球「38」のうち、前期13試合で与えた数は「35」。後期14試合で3つしか与えていない。球場ごとのマウンドの傾斜角度に合わせてフォームを微調整していた。ストレートの最速は153キロまで上がり、スピードガンには150キロ台がコンスタントに表示されるようになった。

最速153キロのストレートが最大の武器。四国ILでは今季16勝を挙げ、最多勝に輝いた“勝てる”投手



父と母からの言葉


 ずっと大切にしている言葉がある。

『あわてず、あせらず、あきらめず』

 愛媛に入団して2年目、理美さんから送られた言葉だ。

「やらなきゃいけない! となったら、焦って『全然うまくいかない!』みたいに空回りしちゃう。多分、僕の性格を知っていて『慌てんといかんけど、落ち着いてやりなさい』みたいな意味も込めて、3つの言葉にまとめたんじゃないですかね」

 以前は帽子のひさしの裏にマジックで書き込み、ピンチになればそれに触れていた。いまではもう、胸に染み込んでいるからその必要もない。

「今年、お父さん(博さん)にももらったんですよ。言葉を」

『努力は才能を上回り、気力は実力に勝る』

 父から手渡されたボールには、そう書かれていた。

 東北楽天から指名された瞬間、グッと右拳を作り、柔らかな笑顔を見せた。そのあとすぐ、頭の中が真っ白になった。

 インターネットで会議の行方を追っていた家族も歓喜に包まれている。電話の向こうで博さんが「やったーっ!」と、これまで聞いたことのないような歓喜の声を上げている。理美さんと祖母・末子さんが泣いていた。

 10月30日、東北楽天から長島哲郎副スカウト部長、愛敬尚史スカウトが指名のあいさつに訪れている。

「1年目から勝負だということは彼も分かっていますし、われわれもそういう判断の下で指名しています。独立リーグで7年間、彼は教育を受けてきて、やっとチャンスをつかんだわけですし、それだけの能力もある」(長島副スカウト部長)

 7年間という長い時間は、それでもプロ野球選手になるための近道だった。アイランドリーグという厳しい環境で鍛えられ、成長し、即戦力としてNPBの世界に挑む。これまで積み重ねてきたものを来季、証明しなくてはいけない。

「四国代表として、これからのアイランドリーガーにもいいお手本になるように。四国の皆さんにも“恩返し”じゃないですけど、しっかり活躍して『あのときアイランドリーグで頑張ってた入野や!』と思ってもらえるように。夢を与えられるように頑張りたいです」

 NPBで、さらに上を目指す。胸にあるのはこの言葉である。

「あわてず、あせらず、あきらめず」

PROFILE
いりの・たかひろ●1988年11月26日生まれ。高知県出身。180cm84kg。右投左打。岡豊高時代は内野手兼投手。プロ育成野球専門学院を経て08年に四国アイランドリーグの愛媛マンダリンパイレーツに入団。本格的に投手としてのキャリアをスタートさせた。13年徳島に移籍すると主に中継ぎを任され、39試合登板で3勝0敗1S、防御率0.81の好成績。14年から先発へ転向。27試合に登板し16勝3敗2S、防御率2.43で、最多勝、ベストナイン、MVPに輝く。四国ILでの通算成績は249試合登板36勝12敗27S、防御率2.56。球種は最速153キロのストレート、スライダー、フォークボール。

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ドラフトで見事に指名を勝ち取った選手たちに焦点を当てる短期集中連載。

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