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第1回 統一球問題で透けて見える組織の機能不全(1)

 

 楽天初日本一と感動のシーンで幕を閉じた2013年のペナントレースだが、日本球界は多くの問題を内包している。今週号より、その諸問題を指摘し、日本球界の未来を考える連載をスタート。第1回は今季、勃発した「統一球問題」から――

 今シーズンで導入3年目を迎えた統一球は、選手をはじめとして「明らかに飛ぶようになった」という証言が開幕直後から激増した。これらの声に対し、NPBは「昨年までと同一のもの」と一貫として変更を否定。加藤良三コミッショナーも「ボールへの選手の対応力が、飛ぶようになった要因」と頑なに主張した。

 ところが、労組日本プロ野球選手会(嶋基宏会長)との6月の事務折衝で追求されると下田邦夫事務局長が仕様変更を公表。しかも、メーカーのミズノ社に「変更したことを伏せるように」と指示したことも明らかにした。当初は「加藤コミッショナーに変更の了承を得ていた」と語っていた下田事務局長だったが、一転して「私の勘違い」と発言を翻すなど、お粗末な対応だけが目立った。

 統一球は加藤コミッショナーの肝いりで2011年に導入。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などの国際試合で、選手が使用するボールへの対応に苦しんだことがきっかけとなった。それまでは複数のメーカーが混在し、各球団が任意でそれぞれのメーカーと契約する方式。技術力競争は、必然的に「飛ぶボール」の創出へとつながった。

 加藤コミッショナーは「国際球に近づけるため、反発係数を抑えた同一仕様の球にしたい」という考えを打ち出し、メーカーのプレゼンテーションなどを経てミズノ社による12球団への単独供給が決定。しかし、甘い理想に満ちたアプローチは幻想だったことが分かる。1社独占という形が結果として球界の“密室体質”を絡め、泥沼の事態を招いた。

 加藤コミッショナー自身も認めているように、一連の騒動は「ガバナンス(組織統治)不足」によるところが大きい。元駐米大使を務めた高級官僚出身の球界トップを、NPBが必要以上に大事に扱ったことの積み重ねが騒ぎの根底に流れていることも間違いない。

NPBが加藤コミッショナーを必要以上に大事に扱ったことの積み重ねが、統一球問題の根底にある[写真=伊藤真吾]



 もともと加藤コミッショナーは、軽いジョークを交えた会話が得意な人好きするタイプ。それをNPBは過剰にガード。2年前の東日本大震災を受けた開幕日程問題や、昨年の選手会によるWBC不参加問題の際など、コミッショナーの“発信”のタイミングがことごとく遅れた。これらの対応のまずさがコミッショナーとメディアの関係を疎遠にさせ、リーダーシップの欠如という論旨の展開、そして統一球騒動へとつながっていく。「変更の事実は一切知らなかった。不祥事とは思っていない」。統一球問題を受けた加藤コミッショナーの記者会見はメディアと世間の反発を買い、騒動の火に油を注いだ。

 そもそも統一球問題とは何だったのか。MLB機構は公認球の仕様を変えることはあるが、それを公表しないという。遅くとも統一球変更の可能性を指摘された開幕直後にNPBが事実を認め報告が遅れたことの謝意を上手に示していたら、問題はあっさり収拾していたのではないか。

 関係者の証言を総合すると、加藤コミッショナーが変更を知らなかったのは確かなようだ。「朝令暮改はない」と言い続けたコミッショナーのプライドに配慮して事実を隠し、発覚後に的確な発言を進言できる参謀が周囲にはいなかった。実務とは縁遠いお偉い“天下り”をトップに据えた組織の意識は、明らかに世間とかけ離れていた。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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