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第52回 少なくなった“タレント”――求めてほしい、ほかとは違う“何か”

 

 今年もまた、賞レースの季節となった。そのシーズンの功績を称えられるのは、選手にとって栄誉であることは間違いない。歴史に刻まれる“一流”の証明となる勲章は、プロ選手全員の目標と言っていい。

 最優秀選手(MVP)をはじめ、ベストナイン、ゴールデングラブなど主な賞は、新聞、放送などある程度の経験を積んだメディア関係者が選んでいる。そんな中、今年の選考について「苦心した」という声が多く上がった。以前は大勢の候補者から誰を選ぶか悩むケースが多かったのだが、ここ近年は候補者自体が少ない。特に、守備に特化しているゴールデングラブは、選考者から「これといった該当者がいないポジションが多過ぎる」という意見があちらこちらから聞かれた。

 打率や本塁打など目に見える数字を基に、総合力で選ぶベストナインは比較的選びやすい。だが、それでも近年は抜きん出た選手がいない。それに輪を掛けて、いわゆる“守備の人”が不在という現実はファンも感じていることだろう。「この選手は打撃の人じゃないの?」と、意外な受賞者に首をかしげたこともあるはずだ。「守備率の優れた選手を選べばいい」という見方もあるが、そう単純ではない。難しい打球を追いかけない野手は守備率が良くなり、チャレンジ精神のある名手は「エラー」の記録が付くリスクを背負っている。

 数字が守備のうまさのバロメーターではないところが難しく、メディアの洞察力やセンスが問われる部分でもある。“タレント”が少なくなったのが寂しい。「華麗」と言われた長嶋茂雄や、「牛若丸」と称された吉田義男ら、ファンを魅了する守備のスターたちが見当たらなくなった。「ささやき戦術」で打者を翻弄した野村克也や、それを引き継いだ達川光男ら、味のあるプレーヤーもいない。職人という観点から見れば、ほんの少し前の荒木雅博井端弘和の二遊間コンビあたりまでか。今は総体的にはレベルが上がっているのかもしれないが、心をくすぐられる技ありの選手が思い付かなくなった。

 打者も同様だ。外角の直球にピクリとも反応せず、変化球狙いのムードを発散。その直後に同じ球を右方向に痛打する落合博満のクレバーさなど、「これぞプロ」の駆け引きと見せ場を演出できる選手がめっきり少なくなった。

▲落合博満のような駆け引きと見せ場を演出する選手が少なくなったのは寂しい[写真=BBM]



 特徴のあるプレーをする選手の激減ぶりは、プロ野球界にとって寂しい。人とは違ったことにトライすることが個々のスキルを上げる。また、それを阻もうとする選手がいるから、全体のレベルアップとドラマを生む。

 見逃し三振のときに腰をひねりながら独特の腕の突き出し方をしてコールする、日本野球機構(NPB)の敷田直人審判の“卍(まんじ)ポーズ”が、今年話題となった。判定の正確さとは直接関係はないが、ファンを中心に好評だ。NPBの前審判長の井野修規則委員は「本人が考えてあのスタイルを生んだ。キレのあるジャッジでもあるし、いいことだと思う」と語る。

 高い技術を競うのがプロの使命。だが、それをいかに個性として周囲を魅了するかも、盛り上げるための大切な要素だ。スター不在のプロ野球界だからこそ、ほかとは違う「何か」を求めてほしい。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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