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第60回 4人の新監督が誕生――指導者育成プログラムの必要性

 

 球春が待ち遠しいプロ野球では、セ、パ両リーグでフレッシュなリーダーがチームを引っ張ることになった。日本一のソフトバンク工藤公康楽天大久保博元広島緒方孝市ヤクルト真中満の4氏。いずれも初めての監督就任で、そのタクトさばきに注目が集まりそうだ。

 歴代1位の実働29年の現役生活で通算224勝をマーク。14度のリーグ優勝と11度の日本一に貢献するなど、実績No.1なのが工藤監督だ。立場が変わり、指導者としてどのようなリーダーシップを見せるか興味深い。

▲昨年、日本一に輝いたチームを率いることになった工藤新監督(左、右は王球団会長)。その結果やいかに[写真=前島進]



 工藤監督と違い、ほかの3監督は指導者としての“下積み”をしてからの船出となる。大久保監督はプロ10年間で打率.249、41本塁打とまずまずの実績ながら、その明るいキャラクターが最大の持ち味。二軍監督だった昨年、病気で静養した星野仙一監督の代行を務めた。シーズン終了後に退任した星野監督の後任として、正式に指揮を執ることになった。

 広島一筋の緒方監督は、引退翌年の2010年から野手総合コーチに就任。誠実な性格でチーム内の人望も厚く、打撃コーチ、ヘッド格コーチなどを経てからの抜てき。真中監督は、09年に二軍打撃コーチ、二軍監督、一軍打撃コーチなどを歴任。情熱ある若手育成にはチーム内外から評価が高い。

 現役時代のスターや知名度のあるOBを監督に推す風潮は相変わらずで、オーナーらの“鶴の一声”で監督が決まるケースが多い。ある球団関係者は「興行の世界だし、監督の人気は無視できない」と漏らす。だが、現役時代に「名選手」と言われていた者が、そのまま「名監督」になれる保証はない。そういう意味では、いきなり指導者の経験のないまま日本一チームのトップに抜てきされた工藤監督は、いきなりの正念場だろう。科学的なコンディショニングやトレーニング法などにも造詣が深い「頭脳派」だが、指導者としての能力は未知数。それを踏まえた球団の全面的なサポートがないならば、球界の宝であるかつての名選手に致命的な“傷”を付けることにもなりかねない。また、大久保、緒方、真中3監督も、さまざまな関係者の思惑も含め、勝負のシーズンとなるだろう。

 プロ野球で明らかに遅れているのは、指導者育成のプログラムだ。ルーキー・リーグからマイナー・リーグ、そしてメジャー・リーグへと、才能を示した者がのし上がるメジャー球界のシステムとは違う。日本野球機構(NPB)の熊崎勝彦コミッショナーは、今後の課題として「ファームの充実」を掲げている。だが、それと同時に、球界の存亡を左右しかねない次代の指導者の腰を据えた育成も、声高に訴えてほしい。

「一度は監督になりたい」――。

 新監督を含め、プロ野球に入った者のだれもが口をそろえる。時には強烈なエゴを捨て、主役である選手のやる気を奮い立たせることも大事な役目となるだろう。「勝つ」という究極的な目標を見据えながら、その人物の経験、知識を基にしたリーダーシップで、いかに“カラー”を打ち出していくか。プロには複雑なプロセスは関係ない。4監督には、周囲に有無を言わせぬ結果を残してほしい。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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