週刊ベースボールONLINE


第61回 黒田ケースの検証を――なぜ、メジャー至上主義の中で、余力十分の選手が日本を選んだのか

 

 メジャー・リーグのドジャース、ヤンキースと名門で7年間活躍した黒田博樹が、古巣の広島に復帰した。メジャー残留なら最高で20億円にもなると言われた年俸を蹴り、5分の1の金額である4億円を提示した広島への出戻りを選択。マネジメント会社を通じて「野球人生の最後の決断として、プロ野球人生をスタートさせたカープでもう一度プレーしたかった」とコメントした黒田に対し、その“男気”を称える声が国内外から挙がった(金額は推定)。

 広島は2007年秋にメジャー挑戦した黒田の背番号15を欠番にし、復帰をアピール。毎年オフになると「1パーセントでも可能性があるのなら」として、オファーを続けた。誰もが驚いた広島入りは、決してたまたまではない。「かつてのエースを取り戻したい」という、球団の並々ならぬ熱意が実った形だ。

「帰ります」という連絡を電話で受けた鈴木清明球団本部長は、「うれしいを通り越して怖いくらい」と感激。ビジネスライクではなく、揺るがない誠意、期待の高さ、そして選手への愛情があれば、資金力に勝るメジャーを打ち負かすこともできる。球界はこの黒田の一連の決断を詳しく検証すべきだろう。なぜ、メジャー至上主義の中で、余力十分の選手が日本を選んだのか。メジャー流出が叫ばれる昨今、日本球界の魅力は何なのか。年明けには、メジャー挑戦を視野に入れてフリーエージェント(FA)宣言をした鳥谷敬が、阪神残留を決めている。一連のケースは、今後主力の移籍をめぐってメジャーを相手にする球団にも参考になるはずだ。

▲メジャーで安定した成績を残した黒田。この貴重な経験を日本球界のレベルアップの財産としたい[写真=Getty Imaeges]



 広島は昨年、23年ぶりのリーグ優勝を惜しくも逃した。要因として、ここ一番での「経験不足」もささやかれた。エースの前田健太を筆頭に、柱となるべき大瀬良大地野村祐輔ら広島の先発陣はまだ若い。黒田の加入は、悲願成就の大きな手助けとなるはずだ。戦力面での影響はもちろん、特に優勝争いでは、本場で培った精神面でのリーダーシップが心強い支えとなるだろう。

 最も貴重なのが、黒田が自身で培ったコンディショニングのノウハウだ。メジャー関係者は、最もメジャー球界で成功した日本人選手の一人として「クロダ」の名前を頻繁に挙げる。パイオニアが「ノモ」なら、インパクトを与えたのが「イチロー」。だが、地道ながら継続してチームに貢献した黒田の評価は、本場では日本で思われている以上に高い。

 年間を通じて先発ローテーションを守り、5年連続2ケタ勝利を挙げ、すべてのシーズンで防御率3点台。鳴り物入りでメジャー入りしたビッグネームが故障で離脱するパターンが続く中、黒田は淡々と質の高い投球を披露。安定感は抜群だった。

 日本球界内だけでなく、これからメジャーに挑戦する選手にとっても、黒田は格好の“成功のモデル”となりそうだ。過酷に変化する環境でのコンディショニングをはじめ、プレーヤーとしていかに状況に適応していくかの生きた経験がある。かつて日本では速球派として鳴らしたが、アメリカに渡ってからは、落ちる球などを磨いて“技巧派”にモデルチェンジ。柔軟に変わることの大切さを、黒田が身をもって示した。

 これからメジャーに挑戦するであろう前田や、先に海を渡ってそれなりの結果を出したダルビッシュ有(レンジャーズ)や田中将大(ヤンキース)も、今後のキャリアで一線級を長く保てるかどうか。その成功のヒントは、黒田の“Iターン”復帰のプロセスにありそうだ。
日本球界の未来を考える

日本球界の未来を考える

週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング