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第71回 司令塔の世代交代――求む!個性あふれるキャッチャーの出現

 

 今年のプロ野球では、新世代の捕手が躍動している。3月27日のセ、パ両リーグ開幕戦では、2年目の巨人小林誠司阪神梅野隆太郎が初の開幕スタメンマスクで出場。他チームでも、3年目のロッテ田村龍弘、4年目の日本ハム近藤健介、と有望な若手が抜てきされた。指名打者としての出場ながら、パワフルな打撃が期待されている西武の2年目・森友哉が翌28日の第2戦で今季初打点。本職捕手でのレギュラーを虎視眈々と狙っている。プロ野球は今、捕手の世代交代の時期を迎えている。

 本塁方向から全体を見渡せる唯一のポジションであることから、捕手は「扇の要」と言われる。単に投手のボールを受けるだけではなく、配球面、精神面でリードする重要な役割が課される。かつてヤクルト、阪神、楽天で監督を務めた野村克也氏は、捕手を「グラウンドの司令塔」と形容している。

 センスと経験が必要で、リーダー的な素養も求められるため、簡単には動かせないポジション。だから、今年のようにフレッシュな顔ぶれが目立つことは珍しい。リーグ3連覇を達成した巨人は、絶対的なレギュラーだった阿部慎之助を一塁にコンバート。正捕手候補として2年目の小林が固定されそうだが、これがどうペナントレースに影響するか(※その後、相川の故障により阿部が再度捕手に)。捕手の能力は投手の出来はもちろん、試合の勝敗に大きく影響するだけに、勢力分布が微妙に変わる可能性が少なからずある。波乱を願うファンにとっては、もしかしたら面白いシーズンになるかもしれない。

開幕時点で巨人の正捕手として抜てきされた小林。このチャンスを是が非でもつかみたい[写真=BBM]



 南海の野村、巨人の森昌彦(祇晶)、西武の伊東勤、ヤクルトの古田敦也─と、かつての黄金時代を築いたチームには必ず名捕手がいた。昔から、捕手は「10年間レギュラーを張れたら一流」とされる。さまざまなスタイル、性格の投手陣を束ねるためにも、できるだけ長い間定位置を確保してもらわなければ困る。しかし、肩の強さ、捕球のうまさだけではしっかりとした「要」にならないだけに、適材を見つけるのは難しい。どの球団にとっても、優秀な正捕手を作り上げるのは至難の業だ。

 正捕手作りを模索しているセのある球団のバッテリーコーチは「今の野球では、打てる捕手でないと使いづらい」と明かす。クリーンアップが中心となって得点していた時代から、下位打線も機動力を含めて積極的に攻撃に参加する野球へと変わってきた。ここ最近の傾向として、正捕手は「名捕手」よりも「強打者」が務めるケースが多くなっている。

 豪快に打ち合う展開は、野球の醍醐味だ。発展途上の未熟なリード面に目をつぶり、バッティングを優先しての正捕手への登用も、間違ってはいない。だが、玄人好みの“この1球”の駆け引きも野球の魅力だ。そのドラマを誰よりも演出できるのは、捕手にほかならない。かつて北別府学大野豊らを巧みにリードした広島達川光男のような、ひとクセもふたクセもある捕手がいれば、プロ野球人気は大いに盛り上がる。

 各球団から、個性あふれる捕手がたくさん出現してほしい。世代交代の時期だからこそ、そのチャンスだ。首脳陣が紋切り型の捕手を求めるのでは、プロ野球として面白くない。選手も周囲に有無を言わせないような強烈なパフォーマンスを見せ付け、レギュラーを勝ち取ってほしい。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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