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第79回 野球の裾野拡大――野球の楽しさと奥深さを伝えることが未来のトップ選手育成につながる

 

 プロ野球の12球団と日本野球機構(NPB)は、野球やソフトボールなどを教える指導者のための教材「みんなが輝くやさしいベースボール型授業」を作成し、5月中旬から全国の小学校2万1000校への無償配布をスタートした。

 30ページ以上にわたるカラーイラスト入りの冊子には、実技の手本が収められたDVDも付く。主な内容は「投げる」「打つ」「走る」などの基本動作で、正しい理論と取り組み方を分かりやすく紹介。熊崎勝彦コミッショナーは「親しみやすい内容を心掛けたので、小学生にも興味を持ってもらえるはず。野球、ソフトボールの普及や振興につながってほしい」と説明する。

 きっかけは、子どもの顕著な野球離れだ。2年前の小学校高学年の児童を対象とした民間団体の調査によると、最も親しんでいるスポーツとしてサッカーが40%以上だったのに対し、野球は15%以下。裾野を広げないと、野球人気が先細りになるという危機感から対策に迫られた。「野球人口の減少に歯止めをかけ、将来のプロ野球選手を確保する」(NPB関係者)というのが、教材配布を決めた最大の理由。五輪の正式競技復帰を目指していることもあり、全世代を挙げて野球熱を盛り上げようという狙いもある。

 2011年から文科省の指導により、小学校の体育では「ベースボール型」が必修授業となった。だが、女性をはじめ野球の経験や知識のない教師も少なくなく、野球の楽しさを子どもたちに伝えられないというのが現実だ。打撃理論どころか、正しいキャッチボールの方法すら分からない教師も多い中、現場からも指導用の専門書を求める声があった。

 時代の移り変わりによる環境も、野球の普及を妨げている。現在、特に都会では子どもたちが野球をする場所がなくなってきた。住宅街の狭い公園ではゲームをすることができず、軟球、硬球に限らずキャッチボールが「危ない」として禁止されている。東京都内では土のグラウンドが減り、野球部がない小中学校もある。昔のように子どもたちが気楽にボールに親しむことができなくなった状況では、敬遠するようになるのも無理はない。

野球の底辺拡大のため、NPBは昨年から「ベース・ウォール」を全国の小学校や公園に寄贈している[写真=BBM]



 NPBでは昨年から、プロ野球80周年事業の一環である「未来の侍プロジェクト」として、ボールを当てて遊ぶための壁「ベース・ウォール」を全国の小学校や公園に寄贈している。高さ2.7メートル、幅7.2メートルの特殊ウレタン製で、打者とストライクゾーンが描かれており、ボールをぶつけて一人でも楽しめるように工夫。遊ぶ場所が少なくなった今、子どもたちに気楽に野球に触れてもらおうというアイデアだ。

 野球に携わっている大人ができることは、子どもたちにそのやりやすい環境と、興味を引くきっかけを与えてやることだ。見るだけよりも、実際にやってみる方が、野球は絶対に楽しい。仲間も交えながら野球にいそしむことは、何よりも勝る情操教育だろう。ただチャンスをつくるだけではなく、プロ選手と一緒に汗を流せる“参加型”の指導方法もより効果的だ。感受性の強い子どもたちに野球が従来持つ楽しさと奥深さを伝えることが、未来のトッププレーヤーを育てることにもつながる。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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