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日本球界の未来を考える

第91回 現場介入は「悪」か

 

情熱を持って古めかしい慣習を打ち破る建設的な“介入”はあり


 楽天は7月30日、一軍打撃コーチを務めていた田代富雄氏のシーズン途中での退団を発表した。「チームの打撃不振の責任を取った」と公式にアナウンスがなされたが、田代氏の選手指導法や育成は球界でも定評があり、状況は単純ではないとされる。複数の報道によると、三木谷浩史オーナーの現場への介入に嫌気が差した田代氏が辞任を申し入れたというのが真相だという。

 具体的には、三木谷オーナーの意向が打順や選手起用をはじめ、走塁面など戦略部分にまで反映。首脳陣が試合前に同オーナーに逐一報告し、意見を求めていたという。グラウンドでの最終的な意思決定が認められているのは、最高責任者である監督。報道が事実だとすれば、これまでの球界の常識から言えば、明らかにやり過ぎだ。

 問題の表面化で悪者扱いされた三木谷オーナーだが、現場介入はすべて「悪」なのか。球団所有者であるオーナーは当然、球団内で絶対的な発言力を持つ存在であっていい。営利を追求する経営者として、自身の所有する球団をより良いものにしたいという考えは間違っていない。哲学や方針をトップダウンで浸透させたいという発想も自然だし、三木谷オーナーのやり方も、見方を変えれば球団経営への情熱の表れだと言える。ただ、プロ野球というスポーツでは、そのリーダーシップの振るい方が、通念に反していたということだ。

 球団の方向性が自分の意と違っているのならば、オーナーが舵を取り直せばいい。その権限は持っているはずだ。今回問題となった現場への介入はアプローチの方法がおかしかったが、オーナーの意向に現場を従わせるのは、組織論の観点からもむしろ大切なことだ。戦い方や選手起用、方針の違いなどにより、時には人事権を行使して、首脳陣や選手らに大ナタを振るうこともあるだろう。だが、人気商売であるがゆえのファン感情や、人としての礼儀への配慮、反発にトップとして対峙する覚悟あっての強権発動であるべきだが。

 今回の件で意外と見逃されているのが、三木谷オーナーの新しい試みだ。楽天は情報技術(IT)の企業らしく、球団創設当初からこれまでの球界になかった最先端システムに目を向けている。選手やプレーのデータ化を推し進めており、今年も最新のハードとソフトの導入で球速や球種などを絡めて投手の球筋を解析。これらを現場に取り入れさせようとした強引さが軋轢となったわけだが、誰も足を踏み入れたことがないことを積極的に導入してみようという姿勢は評価されてもいい。

球団内で新たな試みを進めている三木谷オーナー[写真=Getty Images]


「これまでとは違うことをやる」──。トップの思想を現場に理解させるには、現場への丁寧な説明責任も大事になってくる。誤解を生まないためにも、それらの姿勢を外にしっかりとアピールすることも必要だろう。ファンにしてみれば、これまでのような老獪な首脳陣の経験則でコントロールされた球団と、最先端技術を前面に打ち出した球団のぶつかり合いは、野球の新たな楽しみ方になる。

 プロ野球のオーナーは、もっとモノを申すべきだ。親会社の要職に就き、単に名誉職的な“サラリーマン・オーナー”も多く、声が届けられるのは限られた一部。自分の球団のことだけで頭がいっぱいで、球界発展への熱意を感じさせないオーナーが多い。今回の“暴走”はさておき、三木谷オーナーは2004年秋の球界再編以来、ドラフト制度、外国人枠、交流戦、放映権分配問題──など、球界への提言を発信し続けてきた。

 球界で最も発言力と事態を動かせる力を持っているのは、12球団のオーナーたちだけだ。人気スポーツというイスでふんぞり返るだけではなく、情熱を持って、古めかしい慣習を打ち破る建設的な“介入”に乗り出してほしい。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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