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第96回 欠ける熱気――「セはパよりも弱い」というレッテルの払拭、旋風を呼ぶ下克上を!

 

 ペナントレースが佳境を迎えている。9月16日現在、パ・リーグはソフトバンクの優勝が秒読み段階となったが、セ・リーグは阪神巨人ヤクルトの三つどもえ状態。ファンの立場からは手に汗握る展開のはず。しかし、全体的に何となく熱気に欠けるのは、気のせいだろうか。

 節目となる球団創設80周年に10年ぶりのリーグ制覇のチャンスを迎えた阪神だが、熱狂的なファンをもってしても、18年ぶりの“優勝フィーバー”に沸いた2003年に比べると盛り上がりに欠ける。シーズン終盤に沈んだ近年の戦いぶりで、周囲が冷静になっているのかもしれない。

セの優勝争いはシ烈を極めているが、盛り上がりに欠けるような気がするのは気のせいか[写真=前島進]



 巨人は圧倒的な戦力を誇りながらのもたつきに、ファンの熱が下がっているのか。ヤクルトは本塁打、盗塁など打者部門タイトルを独り占めしそうな山田哲人らが活躍し、最下位から大躍進。それなのに、不思議にも注目の的になっていない。いつもなら過剰に盛り上げようとするメディアも、今年に限っては落ち着いたものだ。

 03年、甲子園球場で行われた最終戦で先発し、阪神としては24年ぶりとなる20勝目をマーク。最多勝とともに防御率のタイトルも奪った井川慶は、紛れもなくシーズンを盛り上げた主人公だった。今年で言えば最多勝争いをする藤浪晋太郎か。ドラマの主人公は、絶対的なエースか主砲がふさわしい。ベテランと外国人選手がその役を担っている今の阪神には、そこが足りない。藤浪には、周囲を圧倒して突き抜けるだけの“すごみ”が欲しい。その潜在能力は、十分に示しているのだから。

 藤浪をはじめ、巨人の菅野智之小川泰弘らこれからの球界を背負うエースが、優勝争いの中で、坂本勇人、山田ら才能あふれる若きライバル打者との名勝負を繰り広げてほしい。「あのバッターから三振を奪う」「あのピッチャーからホームランを打つ」、と誰もが興奮するドラマを演じれば、きっとペナント争いは盛り上がる。

 セについて言えば、パに完膚なきまでに打ちのめされた交流戦の“後遺症”が見られる。6チームすべてが勝率5割を切る惨状を経験し、パの強さとともに自分たちのリーグのもろさを思い知らされたのは間違いない。「セはパよりも弱い」という屈辱的なレッテルは、決定的なものとなった。リーグに属する者の意地として、そのイメージを払しょくする義務がある。

 やらなければならないのは、パに対するお返しだ。その絶好の機会が日本シリーズであることは言うまでもない。是が非でも日本一を勝ち取って、セにも実力とプライドがあることを証明してほしい。まずは例年以上のひたむきさと闘志を持って、ペナントレースを戦い抜く必要がある。それでも盛り上がらないとすれば、興行を生業とするプロではない。

 日本一の栄冠の前には、ペナントレースの後にクライマックスシリーズ(CS)というハードルも控える。フィーバーは作られるものではなく、自分たちの手で巻き起こすものだ。「交流戦を減らすべき」という後ろ向きな意見だけが聞こえてくるようでは、歴史と伝統あるリーグの名折れではないか。今がまさに、旋風を呼ぶ下克上の始まりだ。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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