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日本球界の未来を考える

第98回 世代交代のサイン――継続性のある足腰の強い戦力を整えることが編成に携わる者の使命

 

 プロ野球で「大物」の引退が相次いでいる。特に目立つのが中日だ。9月25日には日本球界最年長の山本昌が、自身の公式ホームページで発表。それより前には、選手兼任だった谷繁元信監督の現役引退をはじめ、同じく2000安打を達成して名球会入りしている小笠原道大和田一浩がユニフォームを脱ぐことを明らかにした。

 中日だけではない。ドジャースなどメジャー・リーグ5球団で活躍した楽天斎藤隆、同じくメジャーを渡り歩いたDeNA高橋尚成オリックス谷佳知西武西口文也ら、各球団のビッグネームが次々に引退を表明。一時代を築いた名選手たちの相次ぐリタイアは、野球ファンだけにとどまらず感慨深いものがある。

今年は中日の和田をはじめ、多くの実績がある選手がユニフォームを脱いだ[写真=松村真行]



 ヤクルトソフトバンクが示したように、長いペナントレースは、若手がバランスよく加わった持久力と瞬発力に長けたチームでなければ生き残れない。全盛期を過ぎたベテランたちにとっては、パフォーマンスの維持は至難の業だ。時間の流れとともに、立場はどんどん厳しくなる。ともに球界を盛り上げてきた戦友たちの引き際の姿に触発され、近年まれに見る大物の大量引退につながったのだろう。

 山本昌には、ジェイミー・モイヤーが持つ49歳180日のメジャー・リーグ最年長勝利を抜くという目標があった。だが、ファンも楽しみにしていた記録更新を前に、50歳の大ベテランは引退を選択。落合博満ゼネラルマネジャー(GM)に「自分で決めろ」と言われていた進退問題だが、結局、潔く身を引くことを選んだ。

 落合GMは以前から、若手を無条件に重用する考えには否定的で、経験豊かなベテランに敬意を払っていた。だが、今回の引退ラッシュに、同GMの意向が大きく影響しているのは間違いない。山本昌をはじめ谷繁、和田、小笠原らは、時に現役への気力はまだ失せていないようにも見えた。だが、チームの基盤を盤石にしようとすれば、功労者への“情”は時には障害となる。シーズン終盤まで最下位争いに甘んじた今シーズンの中日の惨状は、まさに血の入れ替えに乗り出すタイミングだったのだろう。

 不惑をハンディとせず、現役として活躍したベテランたちの生きざまは重い。投球術やバッティング理論などさまざまなノウハウや、何よりも自らが示したコンディショニング方法は、大きな遺産となる。それを貴重なデータとしてムダにせず、どう生かすかが、後進の大きな役目だ。大きな壁として立ちはだかったベテランの離脱は、若手の絶好のアピール機会であり、チームにとっては生まれ変われるチャンスだ。

 チーム作りは本当に難しい。Bクラスに終わった球団だけではなく、あと一歩で優勝に手が届かなかった阪神、ソフトバンクに圧倒されたパ・リーグの球団も思い知らされたことだろう。今年のペナントレースの展開、パがセ・リーグを圧倒した交流戦など、球界全体に世代交代の時が到来したことを示すサインは、至るところで見受けられた。

 莫大な資金を投じて外国人やフリーエージェント(FA)の選手を獲得するのも一つの手ではあるが、投資に見合っただけの結果が出るとは限らない。仮に「勝つ」という目標をある程度クリアしたとしても、若手らの出番を阻み、活性化が停滞するマイナス要因も出てくる。一過性ではなく、いかに継続性のある足腰の強い戦力を整えることができるか。それが編成に携わる者の永遠の使命となる。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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