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日本球界の未来を考える

第103回 打撃力強化を掲げる若きセの指導者たち

 

既成概念にとらわれない若きリーダーの下で、プライドを取り戻そうともがくセ


 阪神金本知憲新監督に続き、巨人高橋由伸の監督就任が決まった。DeNAアレックス・ラミレスが抜てきされ、新しいリーダーはいずれもかつての四番打者。これでセ・リーグの監督は、ヤクルト真中満広島緒方孝市中日谷繁元信と、全員が野手出身の40代とフレッシュな顔ぶれとなった。

 秋季キャンプに参加した金本監督は、まずは打撃練習を注視した。大和上本博紀らを例に挙げ、「うまく打とうとして、振れなくなっている」と指摘。全員に強いスイングを要求し、「バットを振り切ること」をテーマにした意識改革に乗り出している。

 阪神は掛布雅之岡田彰布らを擁し、セ記録の219本塁打をマークした1985年以降、金本監督の現役時代を除けば、30本塁打を記録した日本人選手がいない。「これは異常」と金本監督はため息をつくが、リストワークで“ボールに合わせる打撃”がまかり通っていたのは、阪神だけではない。広島の緒方監督、巨人の高橋監督も、優勝を逃したチームの立て直しとして「力強いスイングによる打撃力強化」を目標として掲げている。

阪神を新たに率いる金本監督。指導にも力が入っている[写真=内田孝治]



 スイングの重要性を示したのが、パ・リーグ覇者のソフトバンクが混戦のセ・リーグを制したヤクルトを4勝1敗で下した日本シリーズだ。戦前から「ソフトバンク優位」がささやかれてはいたが、ヤクルトは下馬評を覆すことはできなかった。苦戦続きだった交流戦に続き、またもパの王者に力の差を見せ付けられた形となった。

 バランスの取れた投手力もそうだが、ヤクルトのベンチが最も痛感したのが攻撃力の差。バッテリーを揺さぶる福田秀平明石健志の一、二番に続き、柳田悠岐李大浩松田宣浩ら強力な主軸が控える。クリーンアップ以下も長谷川勇也中村晃今宮健太らパワフルな好打者が控える。どこからでも点をもぎ取れる打線は圧巻だった。ヤクルトの四番を務めた畠山和洋は「実力の差を感じた。こんなに強いチームが日本にあったのかと再認識させられた」と脱帽した。

 ヤクルトは3割、30本塁打、30盗塁のトリプルスリーをクリアした山田哲人をはじめ、首位打者の川端慎吾、打点王の畠山ら打撃部門のタイトルホルダーがひしめく「打」のチーム。山田が3打席連続本塁打を放つなど一矢報いたが、それでもシリーズ全体ではソフトバンクの破壊力が際立った。

 パは比較的球場が広く、150キロ超の速球派も多い。打者はそのパワーに負けないスイングをしなければ対応できない。一方のセは、コースを巧みに突くコントロールのいい投手が多く、センター中心に確実にミートする打撃が近年の傾向。だが、そのスタイルの激突では勝てないという現実が、またも目の前に突き付けられた。

 勝つためにどうすればいいのか。何かをしなければ、現状は打破できない。セの若い指導者たちは、変革が必要なことを分かっている。辛酸をなめたセが、既成概念にとらわれない若きリーダーの下で、プライドを取り戻そうともがいている。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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