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日本球界の未来を考える

第109回 新たなステージへの挑戦が明日への突破口となる

 

パワフルな野球と渡り合うためにデメリットを払拭し、球界全体のスキルアップを!


 2015年に取得した海外フリーエージェント(FA)権を行使して、メジャー・リーグへの挑戦を目指していたソフトバンク松田宣浩がチームに残留することになった。

 内野手にとって、メジャーは大きな壁となって立ちはだかっている。過去、松井稼頭央(楽天)をはじめ、西岡剛(阪神)、中島裕之(宏之=オリックス)、川崎宗則(ブルージェイズFA)らが挑んだが、レギュラーを獲得するまでには至らなかった。ほとんどが長期にわたって安定した成績を挙げることができず、野手の評価は総じて高くない。特にネックとなっていたのが、打撃の“非力さ”だ。ここに日本野球の限界がある。

 松井秀喜氏は日本最後のシーズンとなった2002年に巨人で50本塁打を放ったが、ヤンキースに移籍した翌03年には16本塁打に激減。日本球界屈指のスラッガーでも、本場のパワーには太刀打ちできなかった。コンパクトにバットを振り、確実にミートする――。日本特有とも言えるバッティングスタイルが、メジャーのパワーをどうしても打ち破ることができなかった。

 打者で最も成功したのは、言わずと知れたイチロー(マーリンズ)だ。メジャー通算3000安打が秒読み段階に入り、殿堂入りも確実とされるイチローは、なぜ結果を残すことができたのか。人並み外れた才能と努力があったのはもちろんだが、打撃に対する考え方にもそのヒントがひそんでいる。

 43歳のシーズンを控えた今でも、イチローの打撃練習には誰もが驚嘆させられるはずだ。全身のバネを生かしたパワフルな打撃フォームから、広いメジャーの球場でサク越えを連発。まるで、ホームランバッターのような打球を放つ。インパクトの瞬間に最大の力がバットに伝わるように、思い切り振り抜く。芯に当てるバットコントロールの精度の高さは常人離れしているが、同時に「ハードヒット」の意識に圧倒される。

 松田もそうだが、トリプルスリーの柳田悠岐(ソフトバンク)や山田哲人(ヤクルト)のように、最近の日本のプロ野球では大きく足を上げてバットを振り抜く選手が増えつつある。筋力トレーニングが普及し、大谷翔平(日本ハム)、藤浪晋太郎(阪神)ら常時150キロ台の剛球を投げる「メジャー級」の投手が急増。打者にしてみれば、力負けしたくないという意識も働いているのだろう。

2015年トリプルスリーに輝き、本塁打王のタイトルも獲得したヤクルト・山田は左足を大きく上げて打つ[写真=高塩隆]



 セ、パ両リーグによる交流戦で、セがパに44勝61敗と惨敗。あるベテラン審判員は、セ、パの野球についてバッティングの違いを指摘した。「コースによって左右にコツコツ打ち分けるセに対し、パの打者は多少のコースのズレを気にせず強打する。セがパのパワーに、ねじ伏せられた形」と解説。セ・パの格差は、日本とメジャーの違いにも通じる。

 足を上げずにタイミングを計る、いわゆる「すり足打法」は、昔から確実性を上げるために有効と言われた。足を上げるフォームは軸がぶれるなど欠点も多いが、インパクトで最大の力を伝えることが容易という利点がある。すり足はこれまで日本野球のレベルを高めてきた打撃だけに、単純に時代遅れと決めつけられない。だが、あえて新たなステージに挑戦することも、明日への突破口となるはずだ。各自がデメリットを払しょくし、球界全体がスキルアップできたならば、パワフルな野球と対等に渡り合える時代が到来する。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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