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日本球界の未来を考える

第110回 モラルあるプロ野球へ

 

社会性を保つことが尊敬の対象となり、最大のファンサービスにもつながる


巨人ヤンキースなどで活躍した松井秀喜。その視線の先には常にファンの姿があった[写真=BBM]


 新年を迎え、キャンプインまで約1カ月。今年もまたプロ野球が始まる。日本のエース前田健太が念願のメジャー移籍となったが、引退も検討していた「男気」の黒田博樹が球界最高の推定年俸6億円で現役続行。最多勝、勝率、防御率の投手三冠に輝いた大谷翔平が、打者でも一流になるための「二刀流」を継続する。「トリプルスリー」の山田哲人柳田悠岐は、さらなる高みへ挑戦──。見どころ満載で、ファンならずともシーズンへの興味は尽きない。

 斜陽がささやかれ続けたプロ野球だが、ここにきて活気を取り戻しつつある。2015年の総入場者数はセ・リーグが1351万900人、パ・リーグが1072万6020人で、実数発表後の05年以降ではともに最多。黒田人気やカープ女子で沸いた広島が球団史上初となる200万人突破の211万266人を記録。初開催の国・地域別対抗戦「プレミア12」での侍ジャパンの熱戦がテレビで高視聴率を稼ぐなど、失せていなかった野球人気がうれしい。五輪復帰、来春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向け、さらなる飛躍のシーズンとなってほしい。

 そんなムードに水を差したといえるのが、昨年の巨人3選手による野球賭博問題だった。1969年に発覚した「黒い霧」以来の不祥事は、今後のプロ野球に対する警鐘にもなったはずだ。モラルの低下は、野球離れに直結するダメージとなりかねない。12球団をはじめ日本野球機構、日本プロ野球選手会は独自の再発防止プログラムを組んでいる。イメージが大事な世界だけに、常に選手1人ひとりに社会性重視の啓発をする必要がある。

 04年オフの球界再編以降、スローガンとなった「地域密着」の意識が野球人気の維持につながったのは間違いない。だが、気になるのが、各地域で“ヒーロー”に祭り上げられた選手や球団が、勘違いをしているケースも見受けられることだ。

 プロ・アマ含めたさまざまな競技中、総じて取材が厄介なものの筆頭と言えるのがプロ野球だ。社会人としての礼儀に欠く対応しかできない選手が多くなった。謝礼が発生したり、OBやタレントらが関わる取材には快く応じたりするが、そうでない場合には態度が一変する者もいる。かつてのONや松井秀喜、最近では黒田のように「メディアの向こうには大勢のファンの視線がある」という意識を持ち、自分の言葉を正確に発することのできる選手が少なくなった。このままでは真のスーパーヒーローは出現しにくく、人気の維持も危うい。

 小さいころから野球中心の生活をしてきた選手に対し、本来なら身柄を預かる球団関係者が“教育”すべきだが、それもできていない。対応のわずらわしさからか「取材していただかなくても結構」と言い放つ球団関係者もいるというから、驚かされる。一般社会では受け入れられない傲慢さが、結果的に社会からの乖離を招いている現実は、悲劇としか言いようがないだろう。

 もちろん、日和見主義に走りがちなメディアの姿勢にも問題はある。要はプロ野球という人気スポーツに携わる業界全体の責務として、謙虚さを忘れてはならないということだ。モラルと社会性を保つことが尊敬の対象となり、最大のファンサービスにもつながる。(文責=編集部)
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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