週刊ベースボールONLINE

日本球界の未来を考える

第110回 野球認知度の低い地域への働きかけ、アジア戦略の価値

 

認知度の低い地域への働きかけは野球の繁栄に大きな影響を与える


 わが国で野球に並ぶ人気スポーツがサッカー。長期的な発展を図ろうとする関係者の取り組みには、注目すべき点が多い。「百年構想」を哲学とするJリーグは近年、クラブの収益拡大と競技普及のために、アジア戦略を進めている。選手のアジア枠を設け、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシアなど東南アジアの有力選手を積極的に獲得。Jリーグから選手や指導者の派遣も行っている。過去はヨーロッパ、中南米などサッカーの盛んな地域との交流に視線が向いていたが、これからの可能性を秘めた身近にも広げようと躍起だ。

「百年構想」を哲学とするJリーグ。アジア戦略にも積極的だ/写真=Getty Images



 東南アジアの各国に放映権を無料で譲渡。露出を高め、Jリーグへの興味を持たせる措置をとっている。アジアの新興国・地域は、市場的にも大きな将来性を秘めた“未開”の地だ。関係者によると「タイ、ベトナムなど経済発展の著しい国は、お金もたくさん持っている。スポーツに企業が投資したり、一般人が実際にプレーしようとしたりする熱気は日本以上にある。宝の山」と説明する。

 日本サッカー協会(JFA)は2014年、ベトナムのサッカー連盟とパートナーシップ協定を締結。前年には、Jリーグ札幌が「ベトナムの英雄」と呼ばれるレ・コン・ビンを獲得した。その影響もあり、ベトナムから北海道への観光客が爆発的に増えるなど、スポーツを架け橋にした民間レベルでの交流が進行。アジアを戦力供給の地として確立するのはまだ時間がかかるが、長期的戦略としては見過ごせない。つながりが強固になれば、ベトナムだけではなく、アジア全体の意識はさらに強まる。単なる選手供給先から振興へと広がり、必然的にビジネスパートナーとしての関係も密になってくる。

 野球の20年東京夏季大会からの復帰が、今年8月の国際オリンピック委員会(IOC)総会で決定する見込みだ。08年の北京五輪を最後に除外されて以来、正式競技となるのは3大会ぶり。国際野球連盟(IBAF)のリカルド・フラッカリ会長が「五輪復帰は悲願ではあるが、球界の最終的な目標ではない」と語っているように、東京五輪以降の関係者の取り組み方が重要なポイントだ。

 野球人気が高いのは、五輪への関心度を別にすれば、メジャー・リーグ(MLB)のあるアメリカをはじめ、日本、韓国、台湾のアジア勢、キューバ、ドミニカ共和国など一部に限られているのが現実。そこが除外された理由の一つでもあり、すぐにでも野球人気の世界的普及に向けた努力をする必要がある。

 世界的スポーツであるサッカーに比べると、野球は認知度の点でまだまだ。それはある意味、アジアでの展開の余地が多大に残されているともいえる。近年では台湾での公式戦を行うなどパ・リーグ球団の進出も見られるようになったが、ハード、ソフトの両面でさらに進んだ展開を考えてもいい。

 Jリーグのやり方が野球に当てはまるかどうかは一概には言えないが、参考にはなりそう。MLBばかりを見るのではなく、まずはアジアを攻めるのも一つの方法だろう。五輪だけではなく、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、プレミア12など国際大会もある野球の素晴らしさを伝えられたら、競技人口も増える。認知度の低い地域への働きかけは、野球の世界的、永続的な繁栄に大きな影響を与えるはずだ。
日本球界の未来を考える

日本球界の未来を考える

週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング