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日本球界の未来を考える

第111回 ジャッジのハイテク化、何が良くて何がダメなのか

 

野球を変質させてしまう懸念の中、いい、悪いをじっくりと吟味する必要性


 プロ野球では今年から、本塁上でのクロスプレーに対してビデオ判定を導入することが決まった。リプレー映像による検証は、昨年までは左右ポール際や外野フェンス付近の際どい本塁打性の飛球に限定して適用されていた。だが、危険なプレーの禁止を定めた公認野球規則の改定を受け、拡大して適用されることになった。

 本塁での走者の意図的な捕手へのタックルや、捕手がボールを持たずにブロックするプレーの禁止を明文化。該当するプレーがあったとされた場合、試合の責任審判の判断によりリプレー映像による検証が可能となった。審判員の決定については、これまでどおり両チームは異議を唱えることができない。

 ビデオ判定の対象地はこれまで、12球団の本拠地球場とほっともっと神戸だけだった。しかし、これまで地方球場での微妙な判定も多く、今回の変更を機に「公式戦すべての球場」で実施することを決定。新ルールでは、捕手に故意に衝突しようとした走者に対してアウトを宣告。捕手が走者の走路を妨げた場合は、得点が認められる。本塁上でのプレーが危険かそうでないかが判定の趣旨ではあるが、日本野球機構(NPB)の井原敦事務局長は「クロスプレーの判定に疑義が生じた場合で、いろいろなことを含む」と発言。ベース上でのタッチプレー等の判定にも適用される可能性がある。

今季から本塁クロスプレーの規則を厳格化し、危険なクロスプレーを禁止することになった/写真=川口洋邦



 本塁上での衝突プレー禁止は、本場メジャー・リーグ(MLB)でも昨年から適用されている。ほとんどのルール改定をMLBから1、2年遅れで受け入れている日本だが、ビデオ判定に関しては置かれている状況が異なる。

 MLBの場合、ビデオ判定になったときにジャッジをしているのは当該球場の審判員ではない。ニューヨークに特設された本部で、待機している審判団が衛星回線を通じてリアルタイムで詳細に検証。その結果が球場に伝わり、最終決定となる。

 莫大な資金と新たな人材を費やしたシステムを構築したMLBに比べ、日本では球場にあるビデオやモニター機材を使い回して使用。複数の審判員が「見にくいし、メーカーも各球団それぞれだから、短時間で判断するのは難しい」と指摘。また、本塁への走塁と同時に他塁上で併殺崩しを試みた走者の危険な走塁は対象外となるのかなど、現状では難点や不透明な部分も多い。

 ビデオをはじめとした機器による判定には、監督、選手らユニフォーム組をはじめとして「ミスジャッジをなくすためにどんどん採用すべき」という声が多い。一方、微妙なプレーのジャッジをする審判員の“ヒューマンファクター”も「野球の醍醐味」とする見方も一部ファンに根強い。フェアで正確な判定はスポーツの基盤ではあるが、審判の権威が置き去りになるのは悲しい。機械に頼ることでプレーを途切れさせ、スピード感の喪失というリスクをも負うだけに、悩ましいところだ。

 NPBでは、ビデオ判定を審判団に申し入れることができるMLB方式の「チャレンジ制度」実施も視野に入れ、議論を重ねている。また、審判の技術向上のため、投手の投げたボールの軌道をコンピューターが追跡してボール、ストライクの判定をする「トラッキングシステム」の導入も検討している。望もうが望むまいが、ハイテク化は時代の流れなのだ。野球を変質させてしまうのではという懸念の中、何が良くて何がダメなのかを、じっくりと吟味する必要がある。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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