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第113回 “第2の清原”を生み出さないためにすべきこと

 

 西武巨人の強打者として活躍した清原和博元選手の覚せい剤取締法違反容疑による逮捕は、野球ファンはもちろん、そうでない人々にも衝撃を与えた。PL学園高時代には、いまだ破られていない甲子園最多の通算13本塁打を達成。プロ1年目の1986年には西武の四番を任され、打率.304、31本塁打、78打点と、高卒新人としては驚異的な成績をマークした。2004年に通算2000安打、05年に500本塁打を記録。名球会メンバーでもある希代の大選手の不祥事は、球史に刻まれる悲劇となった。

 薬物に手を出すことは、スポーツ選手として最もタブーとされている。報道されているように、孤高の存在としての寂しさや、内面的な弱さも引き金になったのかもしれない。だが、蔓延している球界独特の空気が、社会から逸脱するケースを引き起こす遠因となったことも否めない。

 85年秋のドラフトで、熱望していた巨人が大学進学と見られた同期の桑田真澄を指名。一躍「悲劇のヒーロー」に祭り上げられた清原元選手は、入団した西武で堤義明オーナー(当時)の寵愛もあり、球団から手厚く遇された。高校時代に厳しく教育され、当初は節度ある態度を見せていた清原元選手も、徐々に特別扱いが当たり前であるかのように変質していく。指名を信じていた巨人から袖にされ、人気面ではまだセ・リーグにかなわないパ・リーグの途上チームに入らざるを得なかった若者の胸に、周囲の大人への複雑な感情が芽生えた可能性はある。

 ぞんざいな振る舞いに手を焼いたのが、当時のプロ野球担当記者だ。「球団が甘やかすから、取材もしにくい」。昔のようにうるさく行動をいさめる“怖い先輩”も少なくなり、関係者も次第に腫れ物に触るようになっていった。人望を集めたかつてのONらスーパースターとは、明らかに違う存在となった。

“第2の清原”を生み出さないように球界を挙げて再発防止に取り組まないといけない/写真=GettyImages



 社会人のドアをたたいてプロ入りした選手の多感な時期に、保護者として教育できなかった球界の責任は大きい。どんなに能力が優れていようが、一般社会では常識から外れた人物に対する扱いは厳しい。しかし、残念ながら一部の球団には、「選手のため」を逃げ口上に過保護に扱う風潮が残っている。プロならば、年俸という形で差別化を図ればいい。ステータスとはファンをはじめ取り巻く社会が感じ取ることで、プレーヤーや関係者が決めるものではない。わがままを通す球団や関係者(メディアを含め)の初期の教育のまずさは、モラルハザードを起こし、間違いなく一般社会からの隔絶へとつながっていく。

 興行の形態をとるプロ野球は芸能界などと一緒で、華やかな半面、常に反社会的勢力と接触する危険にさらされている。一般人以上に選手が己を律する必要があり、そのためにも“入り口”での教育は大切だ。プロ野球を統括する日本野球機構(NPB)は毎年、新人選手を対象に薬物禁止をはじめ暴力団対策や野球賭博等の有害行為禁止、税務などの講義を行っている。これら啓発活動の強化とともに、各球団は保護者としての責務をかみしめ、選手に毅然とした社会人としての自覚を植え付けてほしい。選手教育はもとより、球団や関係者自体の意識改革が必要であることをしっかりと認識すべきだ。

 選手の野球人生は大事だが、引退してからの人生も長い。選手を単にチームの「商品」として扱っていては、現役後のセカンドキャリアにも悪影響を与える。これからも出るであろう球界の宝は、球界自身がしっかりと守らなければならない。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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