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日本球界の未来を考える

第114回 各球団が注力するファームの充実

 

二軍監督に就任したビッグネームがこれまでとは違った育成部門の構築に一役買う


 今年はプロ野球のファームが面白い。二軍では10人の新監督が誕生。阪神が本塁打王3度などのタイトルに輝いた「ミスタータイガース」掛布雅之中日がセ、パ両リーグで史上初の2年連続最優秀選手(MVP)に選ばれた小笠原道大オリックスがゴールデン・グラブ賞を5度獲得した守備の名手で、カージナルスなどメジャー・リーグでも活躍した田口壮巨人が2年連続20勝をマークした斎藤雅樹らが二軍監督に就任した。知名度のあるビッグネームが同時にファーム指導者として名を連ねたのは、過去にあまり例がない。

掛布二軍監督ら新しい指揮官たちの育成法に注目だ[写真=早浪彰弘]



 高知・安芸市営球場で行われた阪神二軍キャンプ第2クール初日の2月6日、掛布監督は自らバットを握り、6年目の森越祐人に対して約30分、休む間もなく250本ものノックの雨を降らせた。大喜びだったのが、球場に訪れた1200人のファンだ。

「ナイスキャッチ。拍手してくれたお客さんに、ちゃんとお辞儀しろ!」

「この程度のプレーで褒めちゃダメでしょ。お客さんもプロの目を持ってよ」――。

 バットを振るたび、掛布監督は森越やスタンドに向けて身ぶり手ぶりのパフォーマンス。かつてのスターの色あせないエンターテイナーぶりが、キャンプを大いに盛り上げた。

 掛布監督の誕生は、金本知憲一軍新監督の意向もあり実現した。具体的な要求が「主砲の育成」だ。掛布監督は昨秋、キャンプで横田慎太郎をマンツーマンで指導。「トリプルスリーを狙えるだけの身体能力を持っている」と期待する3年目の若手に、長距離打者のノウハウを注入した。

 掛布監督が意識しているのは、ファームの活性化。「一軍に常に選手を供給できるような態勢にしたい。そのためにはレベルアップが不可欠で、選手のモチベーションを上げることが必要」と説く。一、二軍の方針の一致は、チームの未来のためにも望ましい。

 小笠原監督は落合博満ゼネラルマネジャー(GM)の肝いりで就任。プロ入りは決して華々しいスタートとは言えなかったが、並外れた精神力で首位打者2度、本塁打王と打点王をそれぞれ1度獲得するなど一流打者にステップアップ。「プロ19年間で培ったものを、少しでも還元したい」と話す“いぶし銀”の姿は、ファームでの貴重な教科書となるに違いない。

 メジャー経験者初のリーダーとなった田口監督は、本場を見た経験から「選手を育てないといけない」と、ファームの重要性を強調。休養日では、球場から宿舎のホテルまでの約12キロをランニングするなど、選手に負けないエネルギッシュぶり。率先垂範で若手を導こうとしている。一軍キャンプに訪れたファンに「二軍にも来てほしい」と語りかけるなど、自ら“広報マン”としての役目を買って出た。近い将来の一軍監督候補生である田口監督は、かつてチームメートとして活躍したOBのイチロー(マーリンズ)を迎え入れ易い環境作りも期待されているとささやかれている。

 三軍制を取り入れたソフトバンクが黄金期に突入したこともあり、各球団ともファームに力を入れ出した。今年から三軍制を敷く巨人の堤辰佳GMは「ファームを充実させることが、チーム強化につながる」としている。個性あふれる二軍監督らは、これまでとは違った育成部門の構築に一役買いそうだ。それぞれの球団の哲学が結果としてどのように表れるか、興味深く見守りたい。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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