週刊ベースボールONLINE

日本球界の未来を考える

第116回 三軍制に見る戦力の格差

 

偏りを少しでも解消するために、国内の独立リーグをうまく活用すべき


 右肩手術からの復活を目指すソフトバンク松坂大輔に注目が集まっている。腕の振りもスムーズに変わり、キャンプからキレのあるボールを連発。昨年、登板機会がなかった日本の元エースが、存在感を放っている。

「松坂まで戻ってきたら、どうなるんだろう」――。羨望とやっかみが入り乱れたかのような複雑な表情を浮かべたのは、某パ・リーグ球団幹部だ。圧倒的な戦力を誇るソフトバンクは、死角のない孤高の存在に上り詰めようとしている。

「去年のドラフトでの指名の仕方を見ても分かるでしょう。みんな即戦力獲得に必死なのに、6人全員が高校生なんて……。余裕といったところでしょう」。ライバルの選手層の厚さに、お手上げといった感じだった。

今年から巨人で設立された三軍を率いるのは川相昌弘監督。三軍制の確保は企業努力だが、できない球団との格差が開きつつある/写真=佐藤博



 突き上げが止まらないソフトバンクの戦力の基盤となっているのがファーム組織で、アドバンテージの一つが12球団で唯一確立している三軍制だ。2011年から本格導入し、武田翔太柳田悠岐ら投打の主力も三軍を経験。独立リーグ、大学・社会人、韓国プロ野球などと年間80試合もの実戦をこなせる育成環境が、ここにきて他球団との差をじわじわと広げている。

 三軍制は今年から巨人も導入を決定。ソフトバンクに倣い、独立リーグや大学・社会人チームなどと独自に年間90試合を行う見込みだ。また、掛布雅之二軍監督が興味を持っている阪神など、今後も拡大しそうなムードが球界に漂っている。

 これらに伴い、日本野球機構(NPB)では審判員派遣に向けて検討中。相手チーム(大学・社会人、独立リーグなど)所属団体からの2人に加え、審判部から2人を参加させる方向で調整を進めている。派遣されるのは「経験を積ませる」(NPB関係者)ために、育成審判など若手が中心となる模様。今後の展開次第では三軍チーム同士の試合も出てくる可能性もあるため、NPBとしても静観はできないわけだ。

 三軍制の広がりについては、懐疑的な意見もある。「資金力のある球団しか三軍制は敷けないから、これまで以上に戦力格差が出る」というのがその主な理由だ。できる球団、できない球団が混在する中、あるセ・リーグの球団ゼネラルマネジャー(GM)が、「NPBがサポートするのはいかがなものか」と指摘しているという。三軍制の確保は企業努力の一環でもある。だが、確かにペナントレースを盛り上げるための戦力均衡は図れないかもしれない。

 偏りを少しでも解消するためには、国内の独立リーグをもっとうまく活用すべきだ。近年はレベルも急速に上がっており、四国アイランドリーグplusやBCリーグの球団幹部に「NPBの下部組織という位置付けで構わない」と、連携を望む声も多い。NPBの一部球団が実施している独立リーグへの選手派遣を、もっと球界全体でシステム化してはどうか。三軍的な受け皿体制が可能ならお互いの活性化も図れ、金銭面をはじめとしたメリットも出てくる。

 独立リーグ側の立場も尊重した上で、まずは“緩やかな協力体制”を作り上げていい。プロとアマが手を取り合った「侍プロジェクト」を見ても分かるように、信念や哲学を共有したピラミッドの構築は意味深い。知恵を出し合った新たなシステムの模索は、球界のさらなる発展への可能性を広げる。
日本球界の未来を考える

日本球界の未来を考える

週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング