人生とは分からないものだ。強豪野球部のある高校に入学も、1年秋にマネジャー転向を打診された。約1年間、裏方として動いたが、「選手復帰」をあきらめることはなかった。人一倍の努力で160センチ左腕が“大エース”そして“プロ注目左腕”へと駆け上がるまでの過程を振り返る。
取材・文・写真=沢井史

高校2年秋に現役カムバックを直訴

　先発だけではなく、中継ぎ、抑えとフル稼働したのは、今春のリーグ戦だけではない。1年時から立ったマウンドでは主に中継ぎだったが、以降、抑えなども務め、3年秋はそのマルチぶりでリーグ戦2連覇にも貢献した。160センチの小柄な体から放たれるストレートは最速145キロ。大学入学時からスピードは11キロもアップした。“小さな大投手”と呼ぶ前に、小屋裕を一言で表すとしたら“努力の人”。この言葉以外当てはまらない。

　出身は兵庫の強豪校・神戸国際大付高。2005年にセンバツ4強に進出したエース左腕・大西正樹(元ソフトバンク)にあこがれ、同校の門をたたいた。だが、いざ入学してみると、大人と子どもほどの差がある、大きい選手ばかり。「来るところを間違えたと思いました」と小屋。練習メニューも厳しく、「今日の練習はいつ終わるんだろうと思うほど」というハードなランメニューに明け暮れる毎日。そんな中、1年の秋に青木尚龍監督からマネジャー転向を打診された。

「当時、ヒジをケガしていたのもありましたけれど、実力の限界も確かにありました。現役を続けていくつもりだったので、ショックだったのを覚えています」

　それでも現実を受け止め、マネジャー業に奔走した。スコアつけ、飲み物の準備、練習の手伝い……目まぐるしくやってくる裏方業。だが、県下屈指のレベルの神戸国際大付高に入学した以上、裏方のまま終わりたくないという思いもあった・・・