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▲メジャー移籍へ向けて一歩進んだ田中は会見で「球団、ファンには言葉で表せないくらい感謝している」と喜びを語った



メジャー挑戦の夢が叶った田中将大が選ぶべきベストの契約とは?昨年12月25日、楽天がポスティング制度による田中将大のメジャー移籍を容認した。翌日から移籍交渉が解禁となったが、アメリカでも日本球界のエースの動向が注目を集めている。移籍先や契約内容も大きなニュースとなっているが、果たして田中にとってベストな選択とは?メジャー・リーグ取材経験が豊富なスポーツライターの奥田秀樹氏に解説してもらった。

文=奥田秀樹 写真=桜井ひとし

MLB一流投手の市場をコントロールする代理人

 現地時間1月5日現在、メジャー・リーグ(MLB)のストーブリーグ報道がストップしている。目立った大きな動きがないからだ。マット・ガーザ(レンジャーズFA)、アービン・サンタナ(ロイヤルズFA)といったほかの大物FA先発投手と代理人たちも、田中将大(楽天)の交渉のプロセスを静観している。

 ヤンキース、ドジャース、エンゼルス、マリナーズ、カブス、ダイヤモンドバックス、ブルージェイズ、アストロズ、フィリーズ、ブレーブス、ツインズなど多くのチームが獲得に興味を示していると言われるが、勝者は1球団だけ。

 ほかの陣営は、上記のMLB球団が田中のために用意している5000万ドルから1億ドルのお金が、彼らに降りてくるのを待っているのである。

▲会見で楽天・立花球団社長は上限があるポスティング制度の譲渡金に不満を示しつつ、「入団以来7年間の田中の貢献を高く評価」してメジャー移籍を容認したと語った



 ちなみに、田中が選んだエクセルスポーツマネージメントのケーシー・クロース代理人は現在MLBで最高の投手と言われるクレイトン・カーショウ(ドジャース)を顧客に持つ。

 カーショウはあと1年でFAになり、2013年3月、ジャスティン・バーランダーがタイガースと結んだ投手最大契約(7年1億8000万ドル)を抜くと見られている。

 クロース代理人は、MLBのトップ投手の市場をコントロールしうる立場だ。各球団の懐具合、投手需要など、情報は彼のところに集まってくる。複数の球団を巧みに競わせ、田中の金額をどこまで吊り上げるのか?

 ひとつ参考になるのは、12年12月にドジャースがザック・グリンキーと結んだ契約である。6年1億4700万ドルで、3年経てば、オプトアウト(自ら選んで契約を途中で放棄すること)でFAになる条項も盛り込んである。これもクロース代理人がまとめたもの。新人に年俸2000万ドル超えなんて常識ではありえないが、今の市場で、仮に金額を最優先すれば、限りなくそれに近づくのではないか。

長期契約では肩、ヒジの面でもリスクがある

 マネーゲームの交渉期限は現地東部時間1月24日午後5時まで。とはいえ、忘れてはならないのは田中がまだMLBでは1球も投げていないことだ。にもかかわらず、現地メディアの一部の大袈裟な報道。「またか?」と苦笑いせずにおれない。

 17年前、ESPNは伊良部秀輝(元ヤンキースほか)を「和製ノーラン・ライアン」と持ち上げた。能力が高いのは確かだが、NPBからMLBと環境を変えて、上手に適応して、活躍できるかどうかは分からない。それは今までの日本人メジャー・リーガーの挑戦の歴史を振り返れば明らかだ。

 ところが、今回もESPNのあるコラムニストが無邪気に田中将大について「コントロールはグレッグ・マダックス、真っすぐはロジャー・クレメンス、スプリットは上原浩治と比較されている」と紹介していた。

 思い出すのはイチロー(ヤンキース)が、「3年間好成績を続けないと、メジャーで本当にやれたとは認めてもらえない」という趣旨の発言をしていたこと。まっとうな意見で、まだMLBのマウンドで1球も投げていない投手を、持ち上げ過ぎてはいけない。怖いのはこうして持ち上げた人たちが、数字が残せなかったときに一転して酷評する側に回ること。恐るべき手のひら返しである。

 日本球界でのプレー経験もある某メジャー関係者は「もしGMに意見を聞かれたら、こう返事する。田中は真っすぐも速いし、スプリットもいい。いい投手だ。3年契約ならOKだと思う。だがそれ以上の長期契約はどうか? 田中は高校、プロと日本ですでにたくさん投げている。それ以上の長期契約は肩、ヒジの面でもリスクがある、と思うとね」と言う。

 スポーツ・イラスト・レイテッド誌のトム・ベデューチ記者が「日本人投手3年限界説」を書いたのは2年前。それを黒田博樹(ヤンキース)が打ち破ったのだが、これまでの日本人メジャー・リーガーで先発ローテーションを5年以上守れた選手はほとんどいない。

 13年、大活躍したダルビッシュ有(レンジャーズ)、岩隈久志(マリナーズ)にしても、まだ2年である。そもそもメジャー全体でも5年以上安定して投げ続けられた先発投手は、ほんの一握りだ。

 だから3年程度の契約がMLB球団にとっても無難だし、田中本人にとっても最初の1、2年は環境を重視するなどメジャーに慣れることに重きを置き、そのあと大型の長期契約を狙ったほうが良い。

 それはこれまでのいろいろな投手の経緯や選手生活を振り返れば明らかなのだが、お金があり余っている今のFA市場では、そうはならないのだろう。1球も投げていない投手に「より長く、より高く」のマネーゲームが待っている。

▲昨年12月27日には日本プロスポーツ大賞を獲得。大晦日のNHK紅白歌合戦に審査員として出演するなど多忙なオフを過ごしたが、これからは移籍交渉が本格化していく(写真=小山真司)

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