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オリックス・高橋慶彦一軍打撃コーチ「どれだけ選手に好きになってもらえるかが大事」

 

現役時代は俊足巧打のスイッチヒッターとして鳴らし、3度の盗塁王、5度のベストナインを受賞。引退後はダイエー、ロッテでコーチを務め、村松有人西岡剛らをトップ選手へと育て上げた。そして今季、オリックスの打撃コーチに就任し、4年ぶりにユニフォームに袖を通す。そんな名コーチの選手育成法とは──。“名選手名コーチにあらず”を覆す男が、独自の視点で指導論を語る。
取材・構成=鶴田成秀、写真=松村真行

好きになってもらえるか


現場から離れても考えが変わることはなかった。4年ぶりにコーチに復帰した今も大切にしているのは選手とのコミュニケーション。どれだけ懸命に教えても、相手が受け取ってくれなければ意味がない。そう心得ているからこそ、選手と向かい合うことを大事にしている。



 いくら技術を教えるのがうまくても、選手が聞く耳を持たないと何の意味もありません。選手が聞いてくれて初めて“指導”が成り立つのですから。だから「何を教えるか」の前に、大事なのは「どう聞いてもらえるか」ということ。こちらの声を受け取ってもらえる関係を築けなければ、何を言っても伝わらない。いかに聞いてもらえるかが一番大事です。

 そのためには、選手一人ひとりの性格をしっかり把握することは欠かせません。考え込んで落ち込みやすい選手なのか、楽観的な性格なのか。普段から選手を見ていれば、性格は見えてきます。考え込んでしまうタイプは、「考え込み過ぎじゃないか、そんな考え方を持たなくてもいいじゃないの?」と声をかけてあげないといけない。結果を出すためには、気持ちを楽にしたり、考え方を変えないといけない場合があるのです。

 厳しいことは言いますが、叱ることはしません。ときとして“アメ”は必要になっても、“ムチ”は必要ない。叱って選手は伸びはないと思っています。「叱って伸びる」ということは、選手に恐怖心を与え、反骨心を呼び、奮起を促すということ。そもそも、人はなぜ叱られると恐怖を感じるのでしょうか?

 私は、相手のことが好きだから、恐怖を感じると思うのです。反対に言えば、好きでもない人に何を言われても恐怖は感じない。大事なのは、叱ることではなく、どれだけ選手に好きになってもらうか、だと思うのです。

 そのことを思い知らされたのは、ダイエーでコーチを務めていたときでした。ある選手から「好きだから怖いんですよ」と言われ、気が付いたんです。むやみに指導をしてもダメ。どれだけ、選手に好きになってもらえるかが大事なんだ、と。それは冒頭の「聞いてもらう」ことにもつながる。選手に「自分のために言ってくれている」と、どれだけ思わせるか。それからずっと、選手と向き合うことを頭に置いて指導を行っています。しかし、ただ好きになってもらうだけでなく、毅然とした態度も必要なときもあります。

 そうして選手と向きあうことができ、初めて指導が始まります。ただ、技術や理論を伝えるというのはとても難しい。私自身は広島時代に山内一弘さんに指導を受け、山本一義さんにも教えていただき、打撃理論の基礎ができました。そして、その理論や技術を次代に伝えていくというのは、とても大事だと思っています。ただし、自分の“感覚”だけで教えないように気をつけています。

 そのためには、自分の理論を説明できなくてはいけません。端的に「バットが下がっている」、「体が開いている」と指摘するだけでは、問題の解決にはならない。指導すべきは問題点を改善する方法です。なぜバットが下がってしまうのか。なぜ、体が開いてしまうのか。その問題点を究明し、改善法を助言することが指導です。問題点と改善点が「イコール」で結びつくように説明できないと、指導にはならないのです。

 私の打撃理論で言えば、構えは十人十色でも、良い打者の“インパクトの形”は、下半身の使い方やヒジの入れ方など“体の使い方”が共通している。打てない打者は、体がうまく使えていないんです。そこで、構えやステップの取り方、テークバックなど、さまざまな点を見て、改善策を考え、そして指導し、上手に体を使えるように導いてあげる、ということです。

 最近、糸井(嘉男)に指導している、と報道されますが、糸井に対しても、その体の使い方を教えているだけ。彼の場合は、昨年ヒザを故障して打撃を崩したので、しっかり下半身の使い方を教えているだけです。
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