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我が野球論

ソフトバンク・佐藤義則投手コーチ「練習しなかったら落ちていくだけ」

 

フォームで着目するのは関節の動き方。「そこがあるべきところに収まっているかが重要」と佐藤コーチ



本物のエース不在の現状


数々の名投手を育ててきた。阪神では井川慶日本ハムではダルビッシュ有楽天では岩隈久志田中将大、そして現在ソフトバンクでは若手のホープ・武田翔太がエースへの階段を上がっている。自身は現役生活22年で通算165勝。阪急・オリックスでは山田久志という大エースの背中を眺めてきた。名コーチが考えるエース論。

 基本的に俺は全員、まずは先発ができるようにしてほしいと思っています。若手は特にね。その勝負に負けたものが中継ぎに回るんだけれども、ダメだからではなくて、いいボールを投げられるからブルペンに入ってもらうということ。最低限の強いボールが投げられなければ、一軍には入れないよ。

 エースになれる資質だって?俺も聞きたいよ。どんなヤツがエースかって聞かれれば、それはチームが苦しいときに頼れるピッチャー。そこで力を出せるピッチャーだとは言えるね。それも1試合だけじゃダメなんだよ。1年間を通してそういう存在であること。それを何年も続けること。だから、いまのウチのエースと言えば攝津(正)だろう。武田(翔太)はまだまだ。昨季まではただ投げてるだけ。これから何年も続けて十数勝して、みんなに認められてやっとエースになっていくもの。昨季一番勝ったからエースになれるわけじゃないの。1回20勝してもエースにはなれない。何年もやり続けて、首脳陣や選手が「アイツが投げれば勝てる」っていうものが出来上がってくるんだよね。

 俺の経験では山田久志さんは完全なエースでした。12年連続開幕投手をやっているんだけど、それだけ長い間、信頼され続けていたってことはスゴイよ。いまを見ていると、エースって言われても2、3年で変わっていくよね。それがなぜなのか。俺も聞きたいくらいなんだけど、新聞などの情報を見ていると、勝てるようになったピッチャーって、ピッチングなどの量が減っているんじゃないかな。投げるってことが疎かになっているピッチャーが多いように感じる。勝つことを覚えて、いつでも勝てる、それなりにやっていれば勝てるって思っているのかもしれないね。

 でも、練習しなかったら落ちていくだけなんだよ。現状を維持したとしても、打者側の研究が進めば、すぐに攻略される。コンディショニングの知識を持つようになって、トレーニング理論も進化している。でもやっぱり投げることは大事。常にいまの自分を上回る技術を得ようとして取り組んでいないと、落ちるのは早い。俺はそう感じるんだけどね。

 ただ、だからと言ってブルペンで200球も300球もただ、投げ込めばいいというわけでもない。やるのであれば、明確な目的意識を持って取り組むこと。若いピッチャーにはピッチングの締めくくりに「10球中8球ストライクで終了」なんて課題を与えたりするんだけど、中には「お前、何球投げるんだよ」っていうピッチャーもいるよ。でも、「ストライクを投げる」っていう目的意識をちゃんと持って続けていれば、いずれ分かってくるものがあるんだよ。

速さは出せなくても強さは出せる


かつて指導したどのチームよりも強力な投手陣がそろっている。先発だけでも武田翔太、バンデンハーク和田毅千賀滉大中田賢一寺原隼人大隣憲司松坂大輔岩嵜翔東浜巨と一軍先発ローテーション候補がズラリ。補強による充実という見方もあるが、ドラフトで獲得した選手が着実に力をつけているのも特徴だ。

 いいです。問題なくいいです。昨季よりもいいです。ピッチャーに関しては自信があります。勝ったり負けたりは勝負だからあるんだろうけど、能力的に80点を超えているピッチャーが他球団と比べて多いので、勝つ確率はおのずと上がります。数値で表すと非常に抽象的になってしまうんだけれども、一軍レベルを80点とすれば、ウチは一軍にいる投手がすべてそれを超えます。でも、他球団はそこにいっていない投手を使わないといけない状況かもしれない。

 俺も昨季から見ている中で能力の高い選手が多いよね。それはスカウトの選手の見方によるものもあるでしょう。去年の秋のキャンプでは14年入団の加治屋蓮岡本健がいいボールを投げていて驚かされた。まだ一軍登板のない2人で、やっと芽が出始めたところだけど、いいものを持っているんだよ。ケガもあったんだろうけど、それまでの取り組みが悪かったのか、指導が悪かったのか、力があるのにまだ一軍には届いていないんだけれども、ボールが本当に強くなった。それはウチのピッチャー全体を見て言えること。速さもあるけど、強さもあるピッチャーが多いんだよね。

 いくら教えてもスピードを5キロ、10キロって上げるのは難しいんだけど、強さは出せるようになるの。そうなればバッターとの勝負に勝つ可能性がグンと上がる。そうすると試合の勝利に近づく。簡単に言えば、そういう理屈かな。強いボールを投げられるようになるポイントは?って。それは教えられないなあ。

PROFILE
さとう・よしのり●1954年9月11日生まれ。北海道出身。函館有斗高から日大を経て、77年ドラフト1位で阪急(現オリックス)に入団。現役通算22年間で501試合に登板し165勝137敗48セーブ、防御率3.97。引退後の99年に同球団二軍投手コーチとなり2000年限りで退団。02〜04年は阪神、05 〜07年は日本ハム、09 〜14年は楽天で投手コーチを務め、15年からソフトバンク一軍投手コーチ。これまでに井川慶、武田久、ダルビッシュ有、岩隈久志、田中将大、武田翔太など、さまざまな投手の成長を助けた。阪神、日本ハム、楽天、ソフトバンクでは日本一、もしくはリーグ優勝にチームを導いた。勝てる投手陣構築にも定評がある。
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