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Be Professional〜我が野球論〜

ヤクルト・三木肇ヘッド兼内野守備・走塁コーチ「僕は『一緒にうまくなろうよ』というスタンス」

 

凡事の質を上げることで磨かれたチーム力


三木コーチ[左]の指導を受けたルーキーの山崎晃大朗は「盗塁への意識が変わった」と話す。3年計画の1年目がスタートした


選手と接していく中で気づいたことがある。「こいつは分かってくれているだろう」と自分は思っていても「もう少し僕のことを気にしてほしいなあ」と思っている選手がいるということ。だからこそ良いときも悪いときもそれを言葉で伝えることで信頼関係は築かれていく。そしてその関係が成立したとき、言い続けてきたことを選手たちが体現してくれた。それが一番の喜びになったという。

 昨年チームとして取り組んだことの一つに、「記録に見えない部分を大切にしていこう」ということがあった。紙じゃ分からない、スコアブックに載らない、見えない奥深いところね。ベンチでの声掛け、控え選手の行動、ロッカーの雰囲気、試合の流れを読んだ行動・発言。試合に出ている人だったら記録じゃ見えない相手への圧力、相手への思いやりや、気配り・心配り。そういうのがつながってきたときに、粘り強い野球ができたり、1球に対しての思いが強くなって、プレーにもつながってきたりしてくると思う。

 その一つとしてキャッチボールとしっかり走ることを徹底した。守備はキャッチボール、走塁はしっかり走ることでより高い質になっていくし、記録に見えない部分につながっていくから。それをシーズン中も言い続けたね。

 あと、「チームのためにやりましょう」というのは、当たり前のこと。みんな「やってます」って言うよね。だから「“より”やりましょう」「“より”チームのために」と口酸っぱく言ってきた。そうすることで選手の意識もすごく変わってきたし、シーズン終盤のベンチの中での発言や行動にすごく変化が感じられた。それを見たときはやっぱりうれしかったよね。

 守備・走塁コーチとして最初にチームのみんなに話したのは走塁ってすごく大きな力を持っているんだということ。打てなくても一つの判断、一つの走塁や意識で勝ちにつながることはいっぱいあるし、逆に中途半端なことをしたりミスしたことによって流れが相手にいったりする。試合の中では大きな要素を持っている部分だから、と。チームとしてその意識はすごく変わってきた。

 盗塁に関して興味を持ってもらうための一つとしてやっていたのが、盗塁の“質”を上げる、ということ。一つの盗塁をリード幅・位置、フォーム、帰塁、スタート、走路、中間走、スライディングの7つに分けて考える。すると、「成功したからOK」ではなくなってくるんだよね。何がうまくいって成功したのか、成功したけど、自分の中でうまくいかなかったことはなかったのか。そうやって考えることで、さらに興味を持って取り組んでくれる。そして質の高い盗塁になっていく。

 野球選手って、職人性が強いなと僕は感じている。アスリートはタイムを上げようとか力を出そうと思ったら、体のコンディションが大切だよね。でも職人さんっていうのはその状況にあったコツをつかむというのがすごく重要。アスリートな部分もあるけれど、野球選手は毎日試合がある中でコンディションが最高じゃないときもあるわけだから、重要になるのは、コツを見つける作業なんだ。だから練習ではコツを見つける、技術を上げる練習と、練習量を増やして体力強化も踏まえている練習と2つやらなくてはいけない。どちらかというと僕は技術的な練習をするほうが多かったりする。技術的な練習をすることによって自分の野球観を磨いていってほしいからね。そこで気づいたことがあれば、そこから練習の幅を広げることもできる。盗塁一つにしても、自分の盗塁論がしっかりしてくるとさらに質の高い盗塁ができるようになってくるよね。

 それは守備でも同じ。野球は点を取らないと勝てない。でも点を取られなかったら負けないでしょ。打撃の練習をする選手はたくさんいるし、もちろんそれも大事だけれども、チームで戦っているわけだから、たとえその日打てなくても、守備でもチームの勝利に貢献できるんだよね。そのことを少しずつ選手たちが理解してきて、守備や走塁への意識が高まってきたんじゃないかなと思う。

 球場や気候、コンディションが違うから、野球は当たり前のことを当たり前にするのが難しいスポーツだよね。だからこそ、当たり前のプレーのレベルが上がると、チームのレベルも上がるし、選手のレベルも上がる。

 大事なことは“凡事徹底”の“凡事”のレベルを上げること。今年のキャンプ初日には今年もそこは続けていこうという話をした。選手は去年の経験から本当にたくましくなってきていると感じるけど、そこはもう一回ちゃんと締めておかないと連覇はできない。そんなに勝負の世界は甘くないから。今年、選手たちがどんな表情を見せてくれるのか楽しみだね。

PROFILE
みき・はじめ●1977年4月25日生まれ。大阪府出身。上宮高から96年ドラフト1位でヤクルト入団。08年に交換トレードで日本ハムに移籍し、その年限りで引退。現役実働12年間で359試合に出場し303打数59安打2本塁打14打点30盗塁、打率.195。09年から日本ハムで二軍内野守備走塁コーチに就任すると、中島卓也西川遥輝らを指導。12年に一軍内野守備コーチに昇格すると翌13年には北海道移転後初の盗塁王を陽岱鋼が獲得。続く14年には西川、15年は中島と指導した選手が次々と開花した。14年にヤクルトの二軍内野守備走塁コーチに就任し15年シーズンより一軍作戦コーチ兼内野守備走塁コーチに昇格すると山田哲人が盗塁王を獲得。指導歴8年目ながら選手・首脳陣からの信頼は抜群で、熱く親身な指導に定評がある。
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