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第16回 若松勉「王さんの記録だけは破りたかった」

 

プロ野球の歴史を彩り、その主役ともなった名選手の連続インタビュー第16回は若松勉氏の登場だ。身長168センチと小柄だったが安打を量産、時に大きな当たりもかっ飛ばしたまさに“小さな大打者”。ON全盛時代に互角なバッティングを披露した男が自らの野球人生を語る。
取材・構成=大内隆雄 写真=BBM



2試合連続代打サヨナラHR、王と並ぶサヨナラHR8本!


若松氏は1989年に引退しているから、もう四半世紀も前のことだ。いまのプロ野球ファンは、ヤクルト監督として日本一(2001年)に輝いた若松氏の方がおなじみだろう。若松氏がどういう打者だったのか知らない人のために、少し講釈しておこう。身長は168センチと小柄だったが、打ったホームランは220本!

昨年現在でプロ野球歴代82位の本数であり、81位は桑田武(元大洋ほか)で59年の本塁打王。83位はシピン(元大洋ほか)で30本塁打以上3度のパワーヒッター。若松氏の本塁打を打つ技術の高さを、前後の順位の打者が示してはいないだろうか。

160センチ台の200発打者は、ほかに福本豊(元阪急、169センチ、208本)しかいない。福本は1キロの重いバットの力をうまく利用したが、若松氏の持ち味はその見事なスイングにあった。「あの全身を使ったきれいなスイングなら飛ぶだろう」、だれでもそう思ったものである。だから左方向にも打てた。

「私のホームランは全方向ホームランです」と若松氏は言う。そういう“小さなホームラン王”だから、本来、「打率の人」なのに、ホームランの話題もかなり多い打者となった。史上2人目の2試合連続代打サヨナラ本塁打(77年)。3イニング連続本塁打(78年)。通算サヨナラ本塁打8本。これは王貞治(元巨人)と並ぶセ・リーグ記録なのだからすごい。


 いや、王さんの記録だけは破りたかったんですよ、おこがましいかもしれないけど。だってね、私がプロに入った71年は巨人の長嶋さん(茂雄内野手)が首位打者でしょう。72年に私は首位打者になりますが、73年は王さんが三冠王。ON全盛時代にプロ入りしたのだから、それだけでも恵まれた野球人生でしたが、それだけに、何か1つでもONに勝ちたい、そう思いましてね。そうこうするうちにサヨナラホームランが8本になっていた。あと1本でいいんだ。よし、打ってやる。でも、これが打てんのですよ、力んじゃって、力んじゃって。とうとう打てませんでした。

 私は、小さいくせに、とにかく右へ引っ張ることしか考えない打者でした。プロのスカウトの方が目を付けたのも、この引っ張り打法だったようです。電電北海道時代ですが、当時は産業別対抗という社会人の全国大会がありまして、電電部門の予選が千葉でありました。全国各地の電電公社チームが集うワケです。私はそこで右方向ばかりの5本ホームランを打ったのです。これをヤクルトの塚本悦郎片岡宏雄の両スカウトが見ていたんですね。で、プロに入っても練習でとにかく引っ張ってばかりいました。ただ、打球が右翼のポールから少しだけ外にそれていくんです。何だかおかしい。どうしてポールの内側を巻いてくれないのか。するとコーチの中西太さんが「バットが外回りしてるぞ」と指摘してくれました。その後にひどいカゼをひいて何日か寝込み、戻って来て打ってみたら、空振りとファウルばっかり。監督の三原さん(脩)に「チビ(私のことです)、やめろ」と怒鳴られてしまいました。

このピタリと決まったフォームから通算2173安打、220本塁打を放つ



中西コーチの「レフト前でなくレフトオーバーを打て!」で開眼


 こんなことやってたら、とても使ってもらえないと、中西さんに「どうすればいいのでしょう」と教えを乞いました・・・

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プロ野球80年の歴史を彩り、その主役ともなった名選手たちの連続インタビュー。

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