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レジェンドに聞け!

第30回 杉下茂「私のフォークはスピードも握りも3段階」

 

プロ野球の歴史を彩り、その主役ともなった名選手の連続インタビュー第30回はまさにレジェンドの登場だ。“フォークの神様”と称された杉下茂氏、89歳。元祖フォークボーラーで並み居る強打者を抑え込み、通算215勝を挙げた。1950年代、竜の右腕がたどった貴重な野球人生をたっぷり語ってもらった。
取材・構成=大内隆雄 写真=BBM



左右にブレながら打者に向かい、グラグラと左右に揺れながらストン
球速も握りも3段階あったフォーク


今回は球界最長老の登場。この9月17日で89歳を迎えた、元中日の大エースにして、元祖フォークボーラーの杉下茂氏である。とにかくお元気である。大変な声量で、言語明瞭、しかも、記憶力抜群。まず70歳ちょっとにしか見えない。体型も筆者の感じでは20年ぐらい前とはほとんど変わっていない。

その20年ほど前だが、杉下氏の取材の席で、元巨人二塁手の千葉茂氏の「スギ(杉下)のフォークボールは、それが来ると分かっていたら打てた」という“自慢話”を伝えたら「僕は、千葉さんにフォークを投げたかなあ、ワッハッハ」と笑い飛ばされてしまった。つまり、杉下氏のフォークボールは、分かっていたら打てる、なんてレベルのボールではなかったのである。だからこそ、“神様”が「キャッチャーが捕れない球をバッターに打てるかい」の捨てゼリフを吐いたのである。実は、杉下氏は、この神様以外、眼中になかったという。


 私は、川上さん(哲治元巨人監督)と勝負するために投げてきたようなものでね。ほかのバッターの人たちを怖いと思ったことはなかった。巨人の川上を抑える、これが私のすべてでした。もっとも、川上さんを意識し過ぎたせいか、巨人戦では、ほかの平凡な打者に打たれて負けることが結構多かったけどね(笑)。

 とにかく、川上さんにフォークボールをホームランされた記憶はないんです。ただ、55年だったかな、私は、右腕を逆にひねって、今で言うスクリューボールのもっと激しく変化する落ちる球に取り組んだことがあったのですが、それをライトスタンドギリギリにホームランされた。川上さんは、それを「杉下のフォークをホームランしたぞ」と、まあ吹聴したワケです。新聞記者たちは、待ってましたで「川上、ついに杉下のフォークをホームラン!」とかなんとか大騒ぎしたのです。私のフォークは打たれてはいないのです。

 いや、そりゃね、フォークには絶対的な自信を持っていましたよ。そんな簡単に打たれてたまるかい、の。私のフォークは、まず左右にブレながら打者に向かい、打者が打とうとするところで、グラグラ左右に揺れながら落ち始め、最後にストンと落ちる。さらに・・・

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“レジェンド”たちに聞け!

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プロ野球80年の歴史を彩り、その主役ともなった名選手たちの連続インタビュー。

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