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第39回 安田猛「今の投手は『違和感』ですぐ逃げる」

 

抜群の制球力と遅いボールを速く見せる技術で、人気を博した安田猛氏。阪神田淵幸一との対決はギャグ・マンガにもなった。プロ野球の歴史を彩り、その主役ともなった名選手の連続インタビュー。第39回は独特のピッチングスタイルでONにも立ち向かった、技巧派左腕の登場だ。
取材・構成=大内隆雄 写真=BBM



早大入学前から田淵とは因縁があった
その打球を見て「この人、人間じゃない!」


先週に続いて早大-社会人-プロのコースをたどった投手の登場だが、今週の安田猛氏は取材・構成者にとっての思い出深い投手である。先週の高橋直樹氏の早大時代のピッチングは見ることができなかったが、安田氏は、こちらの受験浪人時代からの付き合いだ。

1968年に上京したのだが、真っ先にやりたかったことは、法大・田淵幸一捕手の出る試合を見ることだった。とにかく、そのホームランは、日本中の話題になっていたのである。大学野球の選手のホームランがこれほど話題になったのは、57年の立大・長嶋茂雄内野手(のち巨人)以来ではなかったか。で、春の法大-早大1回戦を期待に胸をふくらませて見に行ったのである。

しかし、これがひどい試合だった。初回に法大が何と9得点。その後も攻撃の手を緩めず法大は20対0の圧勝。たしか、今でもこれは六大学の完封試合の最多得点差試合ではなかったか。これだけ点が入れば、田淵も1本ぐらいは打ってくれる。3回裏、無死一塁で左翼席にデッカい2ラン。打たれたのは? 今週登場の安田氏だった。ここから、安田氏と田淵氏の因縁のストーリーはスタートする。73年の、あの田淵敬遠で始まり(正確にはその次から)、田淵敬遠で終わる日本記録の81イニングが連続無四死球(73年)。いしいひさいちの『がんばれ!?タブチくん』も、このあたりにヒントを得たのではなかったろうか。「ヤスダ」投手が「タブチくん」に「ウリャー」とおちょくり投法で挑むあの、天才的なギャグ・マンガだ。


 いやあ、あの試合は打たれまくりましたねえ。先発が小川さん(邦和投手、のち巨人ほか)で私が2番手。たしか6点ぐらい取られたんじゃないですか(4回1/3で自責点6)。ただ、田淵さんにホームランされたのは忘れていました。そうでしたか。でも、田淵さんには、あんまり打たれた記憶がないんですよ。早稲田はその秋に優勝するのですが、私は1回戦で試合は負けましたが2番手で後半を抑え(4回を自責点0)、3回戦では山中(正竹投手)と投げ合って3対1で勝ち、勝ち点を挙げました(2試合で田淵を中犠飛、遊飛、三振、捕邪飛。安打を許さなかった)。

 私は明大志望だったのですが、早慶戦を高3の秋に見に来て「あ、こりゃ早慶に行かなくちゃ」とすぐ宗旨がえしちゃった(笑)。だって、あのころの早慶戦は、超満員で、ものすごいんです。ちょうど慶応の広野さん(功外野手、のち中日ほか)の新記録の9号ホームランがかかった試合で、広野さんの打球がフェンスの最上部に当たって、無情にもグラウンド側にハネ返ってしまったのも見ています(三塁打)。あんなのを見てしまったらねえ。もう早慶しかない。その少しあとですが、アジア大会(マニラ)に出場の六大学選抜チームの練習を見に早稲田の安部球場まで行ったんです。「来年はここでやるんだ!」と。そこで田淵さんの打球を初めて見たんです。その打球のすごいのなんの・・・

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プロ野球80年の歴史を彩り、その主役ともなった名選手たちの連続インタビュー。

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