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野球浪漫2014

中日・荒木雅博 ファンの記憶に刻まれる“神走塁”

 

2001年のレギュラー定着以来、毎年100試合以上に出場。37歳となった今季もなお、足で、堅守で、チームをけん引する頼れる男だ。名内野手が、自らが生んだ名シーンを振り返り、さらにベテランとしてのこれからの役割を語る。
文=玉野大 写真=佐藤真一



“神”走塁の裏側


 誰もが気軽に利用する無料動画サイトに「荒木神走塁」と打ち込むと、見事に編集された名場面集がヒットする。荒木雅博本人もアクセスしたことがあると告白した。

「いや、時々ですよ。なんか僕が自分好きみたいじゃないですか! でも、テンションが落ちているときには激励になるかも(笑)。あっ、俺こんな走塁できてたんだなって。まだまだ老け込んでる場合じゃない。やらなきゃなって思わせてくれるんです」

 筆者も見たが、なぜだか目頭が熱くなってくる。本塁打や剛速球にはきっと驚嘆するだろうし、美技を集めたシーンならうっとりと感嘆する。それが好走塁となると、心に染み渡る。感情のことなので説明するのはなかなか難しいのだが、恐らく全力で走る姿が美しく、そして健気に見えるからだと思っている。

 その中でも荒木自身が気に入っている「特選走塁」は2つある。1つめが2004年10月22日、西武との日本シリーズの第5戦(西武ドーム)での激走だ。3回に左翼フェンス直撃の打球を打った。左翼・和田一浩(現中日)の打球処理に目立ったミスはなく、誰もが二塁で止まると思った打球で、荒木は敢然と三塁を狙い、陥れた。

「よくベンさん(和田)のスキを突いたみたいに言われるんですが、あれはショートなんです。ナカジが正対して送球を捕ることを、当時の中日は見抜いていました。あのときもそうでした。だから、行ける! って走ったんです」

 ナカジとは中島裕之(現アスレチックス傘下2A・ミッドランド)のことだ。走者を刺そうと思うなら、カットマンは半身の体勢で送球を受けるものだ。ところが、タイミング的に無理な場合は正対で捕る。そこが荒木が突け入ったわずかなスキだった。

 これを見て、野球ファンならピンとくることだろう。今なお語り草になっている1987年の西武対巨人の日本シリーズ第6戦(西武)。辻発彦(西武)がウォーレン・クロマティの緩慢な送球と川相昌弘(巨人)の正対するクセを見逃さず、一塁から単打で一気に生還した伝説の走塁だ。それに匹敵する荒木の「三塁打」は、続く井端弘和(現巨人)の遊ゴロによってさらに価値が高まった。

「ギャンブルスタートでしたからね。指示が出たときは、絶対にセーフになってやろうって待ち構えてましたから」

 打球が転がるのを確認してから走る「ゴロ・ゴー」ではなくライナーでの併殺を容認した上で、とにかく一歩目の早さを優先するのがギャンブルスタートだ。この1点で先制した中日は、王手をかけた。本拠地に帰っての6、7戦を落として敗れはしたが、もし日本一になっていたらもっと評価されていい走塁だった。

▲5月8日の阪神戦[ナゴヤドーム]では1対1の9回裏二死満塁で左前にサヨナラ打。経験に裏打ちされた勝負強さを発揮した[写真=荒川ユウジ]



気迫のヘッドスライディング


 2つめは・・・

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