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野球浪漫2015

巨人・堂上剛裕 地獄を見た男の再挑戦ストーリー

 

全神経をフルスイングすることだけに集中させる。「一番の売りは豪快さ」と語る堂上剛裕は、リーグ3連覇中ながら、どこかおとなしい巨人を変える救世主となるかもしれない。昨オフに中日を自由契約となり、地獄を見た男の、再挑戦のストーリー。
文=三浦正[スポーツライター]、写真=桜井ひとし、高原由佳

死に物狂いで


 2014年9月30日のことだった。ナゴヤ球場で練習を終えた堂上剛裕は、マネジャーから翌日に球団事務所へ行くようにと伝えられた。間もなくシーズンが終わるこの時期に、この言葉の意味は一つしかない。10月1日、戦力外通告を受けた。ある程度予想をし、心の整理をつけておいたつもりでも、いざ、この事態に直面するとさまざまな思いが交錯する。「野球がやれなくなる現実がまだ想像できなかったですし、いざ、(戦力外に)なって、本当なのかな? という感じでした」と素直な心境を明かした。

 ただ、酷な現実に戸惑いつつも「自分の中で、まだ勝負できる自信はありました」と気持ちが折れることはなかった。とにかく、バットを振り続けるしかない。自らの力で、また道を切り開いていくしかない。「やれるかどうか、というのは周りの人が判断することです。(自分にできることは)調整するというか、練習を続けること」とその後もナゴヤ球場で一心不乱に汗を流した。

 トライアウト、さらに、巨人の秋季練習に参加しての入団テストでアピールを続け、育成契約で巨人入団を勝ち取った。「ここからどうにかはい上がって、戦力になりたい。それだけを考えていました」と気持ちを新たにした。

 明けて今春季キャンプでは、その圧倒的なパワー、スイングスピードの速さは、強打者が顔をそろえる巨人でも、ひときわ目立っていた。その力はすぐに認められ、2月23日に早々と支配下登録を勝ち取る。

「一番の目標にしていたので、すごくうれしい気持ちと、ビックリというのも正直なところ。一日ずつ、死に物狂いで食らい付いていく気持ちだけでやっていました」

 大きな挫折を味わったからこそ、目に入る景色は以前と違い、心構えも変わってきた。

「ワンプレー、ワンプレーへの大切さが変わりましたし、あと、思い切りが良くなった、と言うんですかね。一度、終わったと考えれば、思い切って勝負ができる」

 後悔しないように、日々、仕掛けていく。契約を更新しない、と言われたあの瞬間の、複雑な心境を二度と味わいたくはない。

「戦力外を言われたときの気持ちは(今でも)思い出したりしますね。あの後、きついな、というか。その瞬間(の気持ち)は、やっぱり、そうなってからしか分からない。もう、そんな気持ちにだけはならないように、今、頑張るだけです」

感謝の気持ちでいっぱい


6月13日のロッテ戦[QVCマリン]で、移籍後初アーチを放つ。交流戦は3連敗で幕を閉じたが、残り4試合で一軍再昇格した堂上は6安打1本塁打5打点と、気を吐いた



 昔から全力プレーが根幹にあった。5月15日のヤクルト戦(東京ドーム)。0対0と緊迫した投手戦が続く7回のことだ。雄平の左翼線へと上がった飛球を追いかけ、最後はフェンス際で体をぐいと反り返しながら高くジャンプし、つかみ捕った。「イージーと思っていたけど、想像していたものよりも(打球が)切れていった」と苦笑したが、常に全身を目いっぱい使ったプレーに、自然と周囲の目は引きつけられていく。

 この好守で球場中はもちろん、ベンチ内も大きく沸いた。守備は決して得意とは言えないが、日々、練習を見守る大西崇之外野守備走塁コーチは「必死さ、気迫が出ていた。気持ちが入っていた。球際の強さ」と笑顔でたたえ、原辰徳監督も「捕った、ということが全て」。スマートではなかったが、泥臭く、一球に掛ける執念を体現した守備を、誰もが評価した。

 今季でプロ入りして12年目を迎える。いつも100%が身上の堂上だが、中堅の域に入り、無意識のうちに・・・

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苦悩しながらもプロ野球選手としてファンの期待に応え、ひたむきにプレーする選手に焦点を当てた読み物。

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