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野球浪漫2016

中日・祖父江大輔の揺るがない信念 「気迫を込めた投球は変えたくない」

 

穏やかな笑みを浮かべながら丁寧にインタビューに答える姿を見ていると、これがこの男の素顔なのだと気付かされる。だが、まったく正反対の鬼気迫るマウンドでの表情もまた、“戦う者”として、決して欠かすことのできない大きな一面なのだ。
取材・構成=吉見淳司、写真=BBM


 プロの世界に足を踏み入れて、もう3年目になる。しかし、いつになってもこの音を聞き慣れることはない。

「モニターで試合を見ながら考えるんですよ。『そろそろ僕かな』って」

 ブルペンの電話が鳴ると、ビクリと肩が震える。予期していたとおり、グラウンドへ向かうように命じられる。

「マウンドに上がるのは常に怖いですよ」

 押し寄せてくる不安や緊張。だが、ベンチを出て、グラウンドを踏んだ瞬間にスイッチを入れる。打者を威圧するあの表情が、気迫が、自然とわいてくる。「絶対に引かない」。マウンドに立てば弱気な自分はもういない。そこにいるのは、戦う覚悟を決めた一人の戦士だ。

まさかの指名漏れと運命を変えた勝負


 愛知高では遊撃手を務めていた祖父江大輔の運命が大きく変わったのが、愛知大での4年間だった。幼少期からサインをもらうほど、桑田真澄(元巨人ほか)にあこがれていた。それまで背が低く、肩も弱かったためにあきらめていた投手の夢。しかし体ができてきたことで、「軽い気持ちで」投手転向を決意した。

 1年時から愛知大学リーグ戦に登板し、3年秋から3季連続で6勝をマーク(3年秋、4年春は二部)。4年秋には一部でMVPに輝いた。現在、マウンドで見せる鬼のような形相も、このときに磨かれたもの。

「最初はポーカーフェースでいようと思っていたんですけど、気がつけば気持ちが前面に出ていましたね。これまで野手だった分、後ろで守っていてくれる野手に弱気な姿は見せられないですし、160キロを投げられる投手ではないので、気持ちでカバーしよう、と」

 荒々しさを残す青年は、磨きがいのある原石としてプロのスカウトの目に留まった。

 気がつけばソフトバンクを除く11球団から調査書が届いていた。少しでもアピールしようと、変化球の欄には持ち球にないフォークも書いた。

「投げようと思えば投げられるだろうと思って。バレたら怒られちゃいますよね」

 今でこそ笑い話だが、当時はそこまでしてもプロに進みたかったのだ。

 ドラフト当日は「上位指名はなくても、下位ならあるかな」と青写真を描きつつ、チームメートの赤田龍一郎とともに吉報を待った。しかし、待ち受けていたのは残酷な運命だった・・・

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