打球に対する反応の速さ、内外野での打球を追うときの身のこなしのしなやかさは、見るものを魅了する。それが大和だ。2014年、外野でのゴールデン・グラブ賞も自然な流れだろう。だが、15年に打撃面で不調に陥り、ユーティリティーに甘んじた。金本阪神となった今季も同様の場所にいるが、心の持ち様に変化があった。そこに悲壮感はなく、ただ前を向き、もう一度自分の居場所を取り戻そうとしている。 文=佐井陽介(日刊スポーツ新聞社)、写真=前島進、大泉謙也、早浪章弘 動画で出会ったギラギラしていた自分
画面から目を離せない。わずか1分足らずの時間が長く感じられた。1年前の夏。大阪から東京へ新幹線で移動中、何げなくスマートフォンをいじっていたときのことだ。動画サイト「YouTube」に現れた若武者は恥ずかしくなるぐらい、前のめりだった。
「たまたま、自分が一軍で出始めた5、6年前の動画が出てきたんです。懐かしいなと思って再生したら……。ハッとさせられましたよ」 大和は昔から暇があれば、移動中の新幹線やホテルの自室で“映像学習”に勤しむ。
「オジー・スミス(元カージナルス)の片手キャッチとかすごいですよね」 お気に入りはメジャー選手の守備スーパープレー集。普段通り携帯電話の画面をス
クロールしたある日、なぜか自分の走塁シーンを発見したという。
「スタートを切りかけて、慌ててギリギリで戻って……。すごく危なっかしいけど、当時はもう、常に走ってやろうと思っていましたからね」 ナゴヤドームの
中日戦。一塁走者の若かりし大和は左腕・
小林正人のけん制球に動じず、大きなリードで攻め続けていた。失いつつある感情の尊さに気づかされた。
「めちゃくちゃギラついていたんですよね。そのときと比べて今はどうだろうって。今はポジションを奪われる怖さを知ってしまった。失敗する怖さを知ってしまった。あの動画を見たとき、怖さを知らなかったときの気持ちをもう1度思い出さないといけないなと思ったんです」 ある意味、階段を上ったのは昨季15年シーズンのことだった。3月のオープン戦からシーズン開幕直後は絶不調。
「打たんかい、ボケッ!」
「アホッ、バットぐらい振れや!」
凡打を繰り返すたびに観客から大声で罵声を浴びて、正直滅入った。
「それまでヤジられたことがほとんどなかったので。つらかったですよ。試合に出たくない、とさえ思いましたもんね」 一軍に定着した20代前半、スタメン起用が増えた20代中盤のころ、辛口で知られる阪神ファンは大和に優しかった。高卒の貴重な生え抜き選手。失敗しても温かい拍手を送られた。今は違う。ヤジは実力を認められた証でもあるが、人気球団のそれは時にプレーを萎縮させてしまう大き過ぎる重圧にも変わる・・・
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