輝きを放ったのは7年も前の話になってしまった。救世主的な存在の中継ぎ左腕として活躍した榎田大樹。ケガなどから復活を期すも気が付けば昨季は3試合のみの登板に終わった。その悔しさを胸に、今季こそ──。デビュー当時の投球を思い出す原点回帰で、再起を期す。 文=佐井陽介(日刊スポーツ新聞社)、写真=佐藤博之、BBM 年々、日に日に危うくなっていく立場の中で
愛娘にウソはつけなかった。
甲子園から横断歩道を1本渡ると、大型商業施設「ららぽーと甲子園」がある。2017年のある休日。榎田大樹が家族で買い物に出掛けた日のことだ。目的地に到着する直前。甲子園を右手に眺めながら車を走らせていたとき、3歳の長女が満面の笑みで聖地を指さした。
「あっ、ここはパパが仕事しているところだね!」
痛いところを突かれた父親は、苦笑いで首を振った。
「あのね、今はちょっと違うんだ。ここから車で15分ぐらい行ったところで、今は仕事をしているんだよ。またここに戻れるように、頑張らないとね」 阪神の二軍本拠地、鳴尾浜球場は甲子園から車で15分の場所にある。自分は一軍の選手ではない──。榎田は今、決して目を背けることなく現実と向き合い、逆境を乗り越えようとしている。
「自分のやるべきことをしっかりやって。こんな言い方が正しいかどうか分からないけど、野球を楽しもうと思っています。野球を楽しむためには、試合に勝たないといけない。勝つためにはいい投球をしないといけない。いい投球をするためには、地道な練習を避けてはいけない。そう考えれば、やるべきことは単純明快ですからね」 プロ人生の船出は順調そのものだった。10年秋、ドラフト1位で指名され入団・・・
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