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野球浪漫2018

巨人・吉川光夫 あの輝きを超えて―― 「もう1度、2012年を超えたい。そして、巨人で日本一になりたい―」

 

電撃トレードで日本ハムから巨人入りした昨シーズン、わずか1勝と不発に終わった。2012年のパ・リーグMVP左腕は、30歳の節目で迎える12年目の今シーズンを「勝負の年」と自覚する。山あり谷ありの野球人生の中、あの輝きを超える「キャリアハイ」を追い求めて腕を振り続ける。
文=西村海(読売新聞東京本社運動部)、写真=小山真司、BBM


幸先良いスタート


 4年ぶりのリーグ制覇、6年ぶりの日本一奪回を狙う巨人では開幕前、熾烈な先発ローテーション争いが繰り広げられていた。昨季14勝を挙げたM.マイコラスがMLB・カージナルスへ移籍。絶対的エースの菅野智之、昨季2年連続で2ケタ勝利をマークした田口麗斗に加えて、自身のトラブルで昨季1勝の山口俊西武からFAで加入した野上亮磨の4人がローテ入りに当確ランプをともしたが、残る2枠は開幕目前まで確定しなかった。その座を虎視眈々と狙っていたのが吉川光夫。オープン戦2試合で9イニングを投げて自責点1、防御率1.00と結果を残し、開幕ローテに滑り込んだ。移籍1年目の昨季も開幕ローテーションに入りながら、なかなか勝ち星を挙げられず、ついには中継ぎに降格。シーズン終盤に再び先発復帰し、9月にようやく初勝利を挙げたが、最終的に1勝と不本意な成績に終わっていた。

 巻き返しを図るべく、最年長で参加した昨秋キャンプから直球に磨きをかけ続け、春季キャンプ終盤から成果を感じ取っていた。

 今季初登板となった4月4日の中日戦(ナゴヤドーム)は足がつって降板し、敗戦投手となったが、4試合目の登板となった同25日の中日戦(前橋)で大量援護に守られて今季初勝利をマーク。次戦の5月3日の広島戦(マツダ広島)は勝敗はつかなかったものの、同9日の阪神戦(東京ドーム)は6回途中1失点、同16日のヤクルト戦(鹿児島)は6回1失点で自身3連勝を飾った。勝負と位置づけたシーズンで、幸先の良いスタートを切っていた。

高卒新人5人目の快挙


 1988年4月6日、福岡県生まれ。小学校5年のときに近所のボーイズリーグに入団。自ら望んで野球を始めたわけではなかった。「母親に『体験に行ってこい』と言われて、1日体験して入部届をもらって帰ってきたら、翌日には母親にすべての欄を埋められていて、強制的に入れられた感じでした」。左投げで守れるポジションが限られており、すぐに投手を務めるようになった。週5日の練習は厳しかったが、「学校と違う友達とかもできるし、一緒に野球をやれるのが楽しかった」と振り返る。

 中学でも同じボーイズリーグのチームで野球を続けた。ところが、投手を本格的に志す中、カベにぶつかる。制球難だ。ストライクが入らず、試合でもなかなか勝てない日が続く。その姿を見かねた監督から、ある試合で「1個でも四球を出したら交代」と言われたが、先頭打者に四球を出して交代を命じられた。そんな苦い思い出もあるという。

 制球を良くするために、編み出した独自の練習法がある。自宅の駐車場の上部からひもでクッションを吊し、そこに投げ込む的当てだ。「朝早くやるのを日課にしました。クッションに当たらないと、ボールがどこかにぶつかってバーンと音がなって近所にうるさいから怒られる。あれで、コントロールがちょっとずつ良くなっていった気がします」。制球難を克服した成果だろう。中学3年時に出場した全日本中学野球選手権“ジャイアンツカップ”で準決勝まで勝ち上がり、4強入りを果たした。

 2004年、県内外の多くの高校から誘いがある中、親元を離れて広島・広陵高の門を叩く決断・・・

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