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野球浪漫2019

中日・福敬登 チキンハートは恐れない 「肩が万全で引退しても、肩が壊れても後悔が残る」

 

何度も、何度も苦難に襲われた。自身の弱さを憂いながら、またその弱さにも救われてきた。もう何も恐れない。ひたすらチームのために腕を振る。
文=島田明(中日スポーツ)、写真=榎本郁也、BBM


いくつもの苦難を越えて


「よし、いくよ」。ネックレスを強く握り、そう心で唱える。

 自分を守ってくれよ──という願いと、気持ちを入れるスイッチ。福敬登はマウンドに上がり投球練習を終えると、必ずこのルーティンを行う。ブルペンではタオルで顔をぬぐい、「悪い気を吐き出すため」に大きく息を吐き出し、その息をタオルで包み込む。さらにネックレスを握ることで、戦闘モードに気持ちが完全に切り替わる。

 2019年から、中日は与田剛監督を迎え、新たなスタートを切った。ゼロからの競争の幕開け。投手、野手にかかわらず、どのポジションでも全員が目の色を変えて、アピール合戦を繰り広げている。貴重な中継ぎ左腕の福も、懸命に腕を振り続けている。開幕一軍を目指し必死だ。同時に、ただマウンドに立っている、それも一軍マウンドに、という驚きが心の中にはある。

「こうやって投げられているのが、自分でもいまだに信じられない」。福ははにかむが、その言葉は偽らざる本音だろう。苦難の連続だったこれまでの人生。最大の苦しみを乗り越え、たどり着いたマウンドだから。

 社会人野球のJR九州に所属して5年目の15年10月、ドラフト会議で中日から4位指名を受けた。左腕から投げ込む直球は、150キロ超え。実力はもちろん、JR九州の社員らしく小倉駅の駅員をしていたことで話題にもなった。新入団発表会見では、「博多方面、特急列車ご利用のお客様にご連絡します。特急ソニック34号ご利用のお客様は4番乗り場にお越しください!」とマイクパフォーマンス。しかし、なによりも注目されたのが、背番号『34』だった。

 15年限りで現役を引退したレジェンド・山本昌が付けていた背番号を受け継いだ。通算219勝左腕のまさかの後継。「めっちゃ期待されている」。球団から提示されたときは素直に喜んだ。

 しかし、その喜びは自然と消えていく。むしろ・・・

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