史上初となった“外れ1位”での5球団重複指名。大きな注目を集めてプロの世界に飛び込んだ右腕は、歯車がかみ合わぬまま、2年目には右ヒジの手術を余儀なくされた。雌伏の時を経て、涙の復活を果たし、ここから再びエースへの階段を上っていく。 文=田口礼(フリーライター)、写真=榎本郁也、BBM お立ち台での涙
不安に押しつぶされそうになった分だけ、喜びも大きかった。7月9日の
日本ハム戦(ZOZOマリン)。7回を投げて5安打1失点と好投した
佐々木千隼は、ルーキーイヤーだった2017年9月21日の
西武戦(メットライフ)以来、実に656日ぶりとなる白星を手にした。
グランドスラムを放った
清田育宏とともに上がったヒーローインタビュー。答えるのは2番目。やや斜め上を見上げながら、落ち着かない様子で待っていた。マイクを向けられ、第一声は
「いやあ、ちょっと泣きそうです……」。少しだけ声は震え、目もうるんでいるように見えた。何度も鼻をすすった。気持ちを落ち着かせるように大きく息も吐いた。そうすることで涙腺の決壊を抑えようとしているようにも見えた。今季1勝目。ただ、背番号11にとっては今までの白星とはまた違う、格別なものになった。
「手術してここまで長かったですけど、チャンスをいただけたので、それをものにできるようにと考えていました。試合前からすごく緊張していて、大丈夫かなと思っていたけど、投げるにつれてちょっとずつほぐれてきた。そこはよかった。もう少し早く復帰したかったですけど、長い時間が掛かってしまった。そこでもいろいろな方に支えられ、こうして投げることができた。元気な姿を見せられてよかったかなと思います」 1年目の2017年から4勝をマークしたが、シーズン終盤に差し掛かると、右ヒジの痛みが増していった。押し隠したまま2年目を迎えたが、痛みは我慢の限界を超える。目標にしていた開幕先発ローテーションどころか、一軍に呼ばれることがないまま、右ヒジの症状は日を追うごとに悪化し・・・
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