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野球浪漫2019

ソフトバンク・明石健志 “自然体”の生き様 「ここまで来たら“1年でも長く”」

 

度重なるケガに野球をあきらめかけたこともあったが、16年目の今季もはつらつとしたプレーで躍動した。現役野手では唯一、ダイエー時代を知る生え抜き。歳と経験を重ねたその肉体は、なお若々しい。
文=田尻耕太郎(スポーツライター) 写真=湯浅芳昭、BBM


ベテランらしくない16年目


 実年齢は33歳だが、体内年齢はまだ18歳。

 明石健志は少し照れ笑いを浮かべながら、その実情を説明してくれた。

「球団で毎年秋に行う健康診断の中で、筋肉量や基礎代謝量、骨密度などから弾き出された数値です。去年の秋は18で、その前年も18。もうひとつ前の年は19でした」

 三十路を超えてなお、肉体そのものは若返る。体脂肪率はずっと1ケタをキープする。球界で唯一、福岡ダイエー時代も知る生え抜き。今季がプロ16年目だったが、明石ほど「ベテラン」という言葉が当てはまらないプレーヤーは珍しい。

 思い当たるフシがある。

 1つ目は2014年にソフトバンクが日本一を達成した直後のことだ。第5戦(10月30日、ヤフオクドーム)、阪神西岡剛の走塁妨害で決着するという珍しいラストシーンを憶えているファンも多いと思う。日本一を決めた瞬間というのは、文字で表現するのが難しいほどのお祭り騒ぎになる。プロ野球選手は皆、この瞬間のために自主トレやキャンプのつらい鍛錬の日々を耐え過ごし、長いシーズンを戦い抜くのだから当然だ。

 胴上げ、記念撮影、場内一周。グラウンドで大騒ぎしてロッカールームに引き揚げてもテンションはそのままだ。恒例のビールかけまでは少し間が空く。ベンチ奥からは絶えず歓喜の声が響き渡っていた。当時の選手会長だった松田宣浩に至っては乾杯の発声練習を満面の笑顔で繰り返していた。

 そんな中、明石はプラスチックのカップを片手に静かに選手サロンにやってきた。疲労回復に効果があるグルタミンを水で溶かしゴクゴクと飲み干す。冷静な顔でカップを洗って、またロッカーに戻っていった。

 それは日ごろの試合後と同じ光景だった。だが、この日は特別だ。もう翌日から試合はない。何もかもを忘れて喜べる貴重な時間のはずなのに、明石はいつもと変わらなかった。

「僕の中じゃ習慣みたいなものだから、やらないと気持ち悪いんですよ」

 2つ目はいつかのキャンプ中のこと。昼食で筆者がコンビニ弁当をむさぼっていると、そこに現れた明石に怪訝(けげん)そうな顔をされた。

「僕、コンビニ弁当を食べた記憶がない。だって油っこいでしょ」

 ジャンクフードもずっと口にしていない。プロ野球選手の定番である焼肉も「赤身で十分。若いときからロース系やカルビ系はあんまり食べなかった」とサラリと言う。

「おいしいものは食べたいけど、お腹へったって感じないんです(笑)。でも、野球をやっているから、必要なものを摂ろうという感じです」

 コンディション管理を徹底するようになった転機は、自己最多となる135試合に出場した12年シーズンだった。

「前年のオフにムネさん(川崎宗則、現・台湾/味全、内野手兼コーチ)がアメリカに行ったこともあって、シーズンの最初はショートを守ることが多かった。シーズンの途中からは本多さん(本多雄一、現・内野守備走塁コーチ)や松田さんのケガもあり、セカンドもサードも守りました。ずっと試合に出続けるのも初めてだったし、違うポジションを守るとリズムの作り方が難しくて、シーズンの後半はひどく失速してしまった。いくら高い技術があってもコンディションを整えなきゃ力を発揮することはできない。強い体もそうだけど、疲れにくい体、疲れが抜けやすい体を目指すようになりました」

 そして「家で奥さんに作ってもらうゴハンが一番おいしいし体にいい」と目を細める。明石家の食卓にはいつも8〜9品ほどが並ぶ。生野菜に温野菜。きんぴらゴボウなどの根菜やひじきなどの煮物。酢の物。納豆は飽きないようにイカ納豆などひと工夫が加えられ、それにメーン料理、ご飯、汁物だ。今季、8月17日の西武戦(ヤフオクドーム)では愛妻の誕生日に「初めて」という本塁打を放った。そのボールを「できれば返してほしい」と報道陣を通じてお願いし、記念球が戻ってくると本当にうれしそうな顔をしていた。

 33歳、プロ16年目。

 確かな技術もあるから・・・

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